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ミュンヘン:開幕戦で“ドイツ”を実感。彼らの本番の強さと激しさに目を見張る

“ああ、ドイツにいるんだ”という実感がこみ上げてくる。
 そう、ここは紛れもなくドイツ、そして、紛れもなくワールドカップの会場なのだ!!
 2006年6月9日、ミュンヘンのFIFAワールドカップ・スタジアム――遠くからは巨大な飛行船のようにも見える。またの名、アリアンツ・アレナの記者席に私はいた。
 午後4時23分から始まった開会式が終わり、出演者が退き、32ヶ国の参加国国旗も引き揚げたのが4時55分。5時になるとコスタリカとドイツ代表チームが現れて練習を始める。
 隣席の大住良之氏と、このスタジアムは見やすいとか、やっぱり、ドイツの準備はすごい、などと話しているうちに、両チームのスターティング・メンバーがアナウンスされた。
 背筋に電流が走ったのはドイツのメンバー発表で、――GKイエンス・レーマンのアナウンスに応じて、場内からいっせいに「イエンス・レーマン」の大唱和が起こったときだった。
 一人ひとりのアナウンスに対する場内の大復唱は、まことに、音吐朗々(おんと ろうろう)、力強く、かつ音楽的――3番目に告げられたシュバインシュタイガーといったドイツ的で、かつ長い名前も、分かりやすく、見事なテンポで呼んでいた。おかげで、初顔のこの名前を、なじみのクローゼやシュナイダー、メッツェルダーなどとともに頭に叩き込まれてしまう。
 イングランドのスタンドも素晴らしいが、ドイツの観客の声援もまたすごい。32年前の74年大会の決勝で、ドイツのフォクツがヨハン・クライフにタックルを仕掛け、右タッチライン際でイエローを出された。しばらくして、誰かが“ベールティ”と呼ぶと、それにオリンピック・シュタディオンの客席が反応し、“ベールティ”の大合唱でハンス・フベルト・フォクツ、愛称ベルティ・フォクツを励ましたのを覚えているが…。
“やりますね、ドイツのサポーターは”大住氏も同じ思いだったらしい。


優勝チームメンバーの懐かしい顔

 出発前は必ずしも体調は良くなかったところへ、久しぶりの関空−フランクフルトの12時間、さらにミュンヘンへの移動、ドイツ国内便の遅れもあり、やっと到着したハウプトバンホフに近いホテルは設備が古い。などなどで、旅の始まりは必ずしも快適とはゆかなかったが、開会セレモニーのあとのドイツ・サポーターのおかげで、一気にワールドカップ・モードとなった。
 開会式のショーも短くて簡素で良かった。ババリア衣装の牧童のスタイルのボランティアやベルリンの現代ミュージシャンなどによって、ミュンヘンとドイツは、この大会で世界と友になろうと呼びかけ、ワールドカップの歴史を物語る、優勝チームのプレーヤー、158人がピッチを行進、かつて激しく争った名手が笑顔で参加した。イタリアのアントニョーニはすぐそれと知ったが、ドイツのブライトナーはしばらくして、“おお、そうだ”となる――といった調子だった。
 96年のヨーロッパ選手権のとき、開会式のショーでイングランドの名選手たちの行進があった。ちょうど、同じ年のウィンブルドン(テニス)が確か100周年で、現存のチャンピオンが集まったが、やはり、スポーツの歴史を振り返る楽しみは格別なもの。今回の158人全員の写真を撮ったフォトグラファーはいるのだろうか。


シュバインシュタイガーの迫力

 午後6時キックオフの開幕試合で私は“ドイツ”を見せ付けられた。
 2002年に続いて大型化の進む代表チーム、伝統の白シャツ、黒パンツのイレブンはフィールドプレーヤーにメッツェルダー(193センチ)メルテザッカー(196センチ)ボロフスキ(194センチ)の超ノッポが3人、右DFのフリードリッヒも185センチ、180−184センチが3人、170センチのラームと176センチのシュナイダーの二人はもちろん、180センチのポドルスキも小さく見える。
 その大型選手の前へ出る強さ、攻め上がりのすさまじさに目を見張る。スリムでジャンプ力のあるクローゼ(182センチ)とともに、トップを務めるポドルスキは速いうえに肉の厚い体で、少々引っかかっても倒れない強さがある。第2列でバラックに代わって配給するフリングスや先述のシュバインシュタイガーたちの鋭い飛び出しは、まことに迫力いっぱいだった。
 左サイドの小柄なラームがドリブルで中へ持ち込み、右足でファーポストへ決めたシュートを皮切りに、クローゼが2点目と3点目、フリングスの4点目と、大量点を挙げた。コスタリカに2点を奪われて二人のセンターバックの守りに不満もあったが、むしろ私には攻めの迫力が目立った。
 それは私たちがアジアで戦ってきた相手とは一段違っていたし、先の日本との親善試合のときにテレビで見たチームとは別のように見えた。


(週刊サッカーマガジン 2006年8月15日号)

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