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フランクフルト→ライプチヒ:ロッベンの突破とファンペルシーのパスにオランダの伝承を見る

大男ぞろいのオレンジ・サポーター

 オレンジの大群が歌っていた。74年以来、ワールドカップやEURO(欧州選手権)でおなじみの、しかも、心躍る光景が目の前にあった。
 6月11日午後3時、ライプチヒのツェントラル・シュタディオン(センター・スタジアム)で、グループCの第2戦、セルビア・モンテネグロ対オランダの試合が始まろうとしていた。
 この日の朝10時10分にフランクフルトからライプチヒ・ハレ空港(隣町のハレとの中間にあって、両市の名を冠している)に到着。タクシーで鉄道の中央駅へ出て、そこからメディアバスでスタジアムへやってきた。時間に余裕があったので中央駅をぶらついていると、しばらくして、オレンジ色のサポーターたちが現れ始めたので、これは逃げるが勝ちと、早めのバスに乗ったものだ。
 大男ぞろいのオランダ人が集まると、私のような小型人間は、向こう側が見えなくなってしまう。それが試合間近のスタジアム前となれば、なおさら……。何千人という大男の流れをかき分けて記者席の入り口にたどり着くのは、並大抵ではない。視野を遮られて入口の表示が見えなくなるのだから。
 体が大きいだけでなく、声もまたしっかりしている。開幕試合でドイツ、前日にイングランドといった常連国のサポーターの、スタジアムを圧する歌声に続いてのオレンジ勢の豊かな声量に、私は改めて、彼らのワールドカップでの実績を思い起こし、今日はそれが見られるぞ――と、うれしくなるのだった。


190センチのいない不思議

 ピッチ上に散ったオレンジのユニフォームを見ながら、「おやっ」と思う。思いのほか、彼らは大きくない。ドイツやイングランドにいた190センチ以上のフィールド・プレーヤーが見当たらない。FWには大型で有名なファンニステルローイ(188センチ)がいるが、DFとMFではオーイヤー(センチ)とファンボメル(187センチ)が大きい方。スターティング・リストによると、185センチ以上はこの3人だけで、180−184センチが5人、180センチ以上が二人となっている。
 ついでながらセルビア・モンテネグロの方は、DFのガブランチッチとクルスタイッチがともに191センチ、FWには187センチのミロシェビッチがいる。ここにも180−184が5人、180センチ以下が二人。
 私の記憶では、もともと体格の良かったオランダ代表が、88年にファンバステン、フリット、ライカールトなどの大型で技術の高いプレーヤーを中心に、EUROで列強を圧倒して以来、ヨーロッパの大型化の波が高まった。
 そして今年の大会は、190センチ以上の選手がヨーロッパ各チームに続々登場してきた中で、大型化の元祖にそれがいないのが、いささか不思議でもあった(控えには二人いたが)。


チャンスの欧州からの一発

 オランダのキックオフで始まった試合は、ヨーロッパ勢同士のテンポの早い展開となった。7分にオランダのロッベンのシュートがあった。DFに当たってゴールへは届かなかったが、シュートした位置が中央25メートル、ゴール正面だった。
 しばらくして、今度はセルビア側のチャンス。P.ジョルジェビッチが二人目をかわして左サイドから侵入し、ゴールラインから、ニアの後ろめへパスを出した。ミロシェビッチと、もう一人の仲間が重なる形となってシュートには至らなかったが、オレンジ・サポーターはドキリとしただろう。
 14分にロッベンが左サイドでキープし、いったんスローダウンしたあと、縦に抜いてクロスを送った。ボールはGKがキャッチした。その直後に、今度はミロシェビッチの左足シュートをGKファンデルサールがセーブした。
 17分に、そんな互角の形勢を一気にオランダに傾けるゴールが生まれた。ロッベンが中央で、相手ディフェンス・ラインの裏へ走って、ファンペルシーからのスルーパスを取って、相手DFガブランチッチの追走を振り切り、左足で前進守備のGKの左を抜くシュートを蹴り込んだ。
 相手のロングボールを仲間のDFが奪ったとき、ファンニステルローイが右タッチライン際へ開きながら後退し、中央にロッベンが入っていて、彼とファンニステルローイとの間の空白地帯にファンペルシーが入り、そこへ後方からボールが送られてきたのが、第一のポイントだった。そのボールを戻って反転し、高いバウンドをダイレクトで前方へ送ったファンペルシーのプレーが、第二のポイント。
 ロッベンの速さと、落ち着いたシュートは、22歳のこの若いスターの才能だろう。しかも、ファンニステルローイの引いたあとのスペースへ移動し、後方からのボールをボレーで前へ送ったところ――。オランダの組織プレー、というよりその組織を生かすパスのタイミングを22歳のファンペルシーがつかんでいるところに、オランダサッカーの伝承を見る思いがした。


(週刊サッカーマガジン 2006年9月12日号)

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