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ニュルンベルク→カイザースラウテルン:10人のイタリアがPKでオーストラリアを破る

平山相太の成長は……

 U−21日本代表がホームでの韓国戦を、1−1で引き分けた。1週間前のアウェー戦(1−1)と違って、平山相太(FC東京)、水野晃樹(千葉)、家永昭博(G大阪)たちも加わったから、21日の夜は勝利への期待も高かったようだが……。
 この試合で水野のドリブルが注目され、彼のクロスが得点に結びついた。私は平山という、日本人には少ない190cm超の大型ストライカーの成長を楽しみにしている一人。まだまだ不満は多いが、これほどの大型プレーヤーが、ここまで大きな負傷もなく過ごしてきたことに、まず感謝しなくてはなるまい。
 日本の速いテンポのサッカーの中で、自分の持ち味を失うことなくステップアップするためには、得意の型を磨き、そこへの持っていき方を工夫しなければなるまい。FC東京のコーチたちがフィジカル面を含めて助けてくれることを願っている。


スタジアムでのテレビ観戦

 ワールドカップの旅は、日本が初戦で敗れた因縁の地、カイザースラウテルンでの話から――。
 フランチェスコ・トッティのPKが、GKマーク・シュウォーツァーの左を抜いた。アズーリが抱き合ったとき、ルイス・メディナ・カンタレホ主審(スペイン)の終了の笛が鳴った。
 6月26日、カイザースラウテルンのフリッツバルター・シュタディオンのメディアセンターで私はテレビを見ていた。日本がグループFの2位になれば、この日、ここで、グループE1位と戦うはずだった。だから、事前に取材を申し込んでいたのだが。グループEは予想どおりイタリアが上がってきたが、Fからはオーストラリアが進出した。
 対戦国でないために、記者の取材枠が減ったあおりを食って、私には取材チケットが当たらず、スタジアムにいながらテレビを見ることになったのだ。
 イタリアにとっては、薄氷の勝利だった。前半は互いに攻め合って、お互いのサポーターをひやりとさせる。22分にはエリア内でルカ・トニが反転、左足シュートを放ったが、シュウォーツァーが足で止めた。トニが少しでもボールを浮かせていれば、彼の大会初ゴールとなったのだが……。
 オーストラリアはとにかく走る。そして局面では体を付ける、当たる。90年のイタリア大会では米国が体の強さでイタリアを悩ませた(今大会の米国は16年前よりうまくなっていて、やはり大接戦だったが、退場者を出しイタリアに敗れた)。今大会のオーストラリアは技術も高く、そして荒さと強さが売り物。さらに監督のフース・ヒディンクのうまさは、その荒さをも適度に発揮させることにもあった。
 4年前の日韓大会で、ヒディンクが韓国を指揮してイタリアを敗退させたときに、「彼らは高い技術を持ち、少ない数の攻撃でも点を取る。我々はそうではないから、より多く攻めなければならない」と言ったが、オーストラリアも同様に意欲的な攻めを見せる。


マテラッツィのレッドカード

 50分、オーストラリアのマルコ・ブレシアーノの鋭いドリブルが、マルコ・マテラッツィのファウルを呼んだ。一発のレッドカードはいささか厳しすぎる感はあったが、相手DFと併走してエリア内へ入ろうとするドリブラーに対して、マテラッツィのタックルは(後方からではないものの)激しすぎると見たのだろうか――。
 10人の不利といっても、イタリアは全員の守備への気配りの高さがあって、かえって守りが引き締まってくる。
 マルチェロ・リッピ監督は、トニをアンドレア・バルザーリと代えて守りを厚くし、75分にアレッサンドロ・デルピエロに代えてフランチェスコ・トッティを送り込む。調子が良くないと、先発から外れていた彼が入ってから、イタリアの攻めも良くなる。
 そして、ロスタイムに入ってからもプレッシャーをかけ続け、オーストラリアがクリアしたボールをトッティがハーフウェーラインまで戻って拾い、左サイドへ長いパス。ファビオ・グロッソがドリブルしてブレシアーノに競り勝って、エリア内に侵入した。内側から迎え撃つ形となったルーカス・ニールが早めにスライディング・タックルを仕掛けた。いったんかわしたように見えたグロッソが倒されてPKとなった。スローで見ると、ニールの足は相手の足に入っていなかったが、倒れた後の左腕がグロッソの足を引っ掛けたように見えた。
 ベテランのトッティは、こういうチャンスは逃さなかった。キックの前の目線は左方向で(こうして右へ蹴ることもあるが……)蹴ったのも左。GKはそれを読んで飛んだが、ボールには高さがあり、スピードも十分だった。
 ヒディンクはいいチームをつくった。守りを固めたイタリアに対して、一人多い利点を生かせるテクニックと戦術を備えるまでには至らなかったが……。
 それにしても、10人のイタリアがロスタイムの3分間に見せた攻撃は見事だったし、長身のグロッソの長いリーチを生かしたドリブルは、この試合でも威力があった。


(週刊サッカーマガジン 2006年12月12日号)

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