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ドルトムント:長身3人を加えたイタリア。伝統の駆け引きの巧さによる延長2ゴールでドイツを破る

歌会始とサッカー少年

「帰省した 兄とボールを蹴りに行く 土手一面に 月見草咲く」

 新春恒例の歌会始の儀(1月15日、皇居)で、天皇、皇后両陛下や皇族方に加え、一般の入選者10人の作が披露された。今年のお題は「月」で、2万3737首の応募作からの最年少入選者は、大阪の清風高1年の吉田啓太さん。淀川の河川敷で久しぶりに兄とボールを蹴った楽しさを詠んだと新聞は伝えている。
 清風高校は体操で多くのオリンピック選手を生み出し、サッカーも強い。啓太さんも中学生のときに全国大会に出場した経験を持つそうだ。この高校にはかつてスピーチに訪れたことがあり、また、ある時期に河川公団とともに、河川敷でのスポーツ大会の推進を計画したことのある私は、この歌に詠まれた情景を思い浮かべ、とてもうれしかった。サッカーがマイナーであった頃から、あらゆる場面に“サッカーを氾濫”させることを念願していた大先輩の、故・田辺五兵衛さん(1908−1972年)の喜ぶ顔を想像した。
 さて2006年ワールドカップドイツの旅です。大会はいよいよ最終章へ。今回は準決勝、ドイツ対イタリア戦を主に……。


試合後のケンカで出場停止

 トルステン・フリングスのいないのがどう響くかだな。7月4日のドルトムントのワールドカップ・シュタディオン。両チームのラインアップを見ながら思う。開幕試合でキャプテンのバラックを欠くドイツのなかで、フリングスの働きはバスチャン・シュバインシュタイガーの力強さとともに印象に残った。以来、2人はドイツの中盤のパワーとなってきたが、そのフリングスが試合後の“暴行”で出場停止となっていた。
 準々決勝をPK戦で勝ち抜いたとき、アルゼンチン側とドイツ側の口論があった――そのなかでフリングスが相手選手を殴ったという。その模様は他のテレビでは分からなかったが、イタリアのスカイテレビの画面にはしっかりと映し出されていた。その繰り返し放映から、FIFA(国際サッカー連盟)がフリングスの出場停止を決めたとのことだった。
 シュバインシュタイガーも先発から外れ、代わってセバスチャン・ケールとティム・ボロフスキが加わっていた。
 イタリア側はスターティング・ラインアップではジャンルカ・ザンブロッタ、ファビオ・カンナバーロ、マルコ・マテラッツィ、ファビオ・グロッソの4人のDFをはじめ、マウロ・カモラネージ、アンドレア・ピルロ、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、そして飛び出し屋のシモーネ・ペロッタにトップ下のフランチェスコ・トッティといった中盤、さらにワントップのルカ・トニと、まずは変わらない顔ぶれだった。


小柄なイタリアに190cmが3人

 70年代から欧州のトップの座を争ってきた両国代表の大一番は、さすがに見ごたえがあった。局面での1対1に選手の意地とチーム全体の対抗意識があり、どの場面のプレーにも緊張感があった。
 ヨーロッパではこれまで、北方のゲルマン系の体格が大きく、地中海川は小さいのが普通だった。しかし、今回のイタリアは、センターフォワードのトニとDFのグロッソとマテラッツィという3人の190cm以上の巨人を持ち、本来の技術や駆け引きの巧さのうえに体の大きさも加えてきた。
 90分間は0−0。チャンスの数はまず互角だったが、チャンスの作り方からいくと、イタリアに分があった。ドイツは短いワンタッチパスのあとのスルーパスや、左右からのクロスをゴールに結びつけようとしたが、そのラストパスに至るまでのテンポがほぼ同じで、イタリア側には守りやすかっただろう。
 73分にシュバインシュタイガーを投入(ボロフスキと交代)したが、この試合では流れに乗りにくいようだった。


グロッソの左足ダイレクトシュート

 延長に入っても激しい攻め合いは続いた。徐々にドイツが優勢になり、運動量が生きるかに見えたが、118分のピルロのドリブルシュートからイタリアが盛り返す。
 彼が右外から内へ入って左足で蹴ったボールをGKイエンス・レーマンがCKに逃げ、この右CKはデルピエロが中央へ高いボールを蹴った。アルネ・フリードリッヒ(185cm)がヘディングでクリアしたが、同じ身長のアルベルト・ジラルディーノと競り合ったため、ボールの勢いは弱く、ピルロに拾われる。ピルロはペナルティエリア際を中央から右へドリブルし、シュートコースを警戒する相手DFの裏をかいて、エリア内右寄り(右CKのためにニアに詰めていた)にいたグロッソの足元へボールを流しこんだ。
 左利きのグロッソはためらうことなく左足ダイレクトで叩いて、ボールは左ポストいっぱいに飛び込んだ。
 決定的な一撃だった。ピルロのシュートを警戒して、グロッソへのマークが緩んだのが命取りとなった。0−0で延長を終え、得意のPK戦に持ち込めば――とのドイツ側の期待は崩れ、同点を狙って攻めに出る。それを防いで、イタリアはお家芸のカウンターからデルピエロが2点目を奪った。


(週刊サッカーマガジン 2007年2月6日号)

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