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【番外編】歴史に残る対韓国1点目のゴール 力強いプレーと細かな気配りのパス

 1次リーグで日本代表はヨルダン(1-1)と引き分け、シリア(2-1)、サウジアラビア(5-0)に連勝し、準々決勝ではカタールを3-2で退け、準決勝で韓国と延長2-2のあとのPKを3-0で制した。
 29日のオーストラリアとの決勝はまことに楽しみで、大会を振り返るという喜びは、残しておいた方がいいのだが、韓国戦を含めて波乱万丈の5試合を見せてもらったのだから――と、これも佳境にある(と自分では思っている)この連載のヒトコマを借りて、番外編AFCアジアカップ カタール2011 テレビ観戦者の眼――とさせて頂くことにした。
 5試合を終わったところで13得点、失点6。真ん中にサウジアラビアという今大会不振のチームが一つ入ったから、それを差し引いても4試合で8得点、6失点だから悪くない。
 嬉しいのは、チーム全体に点を取ろうとの姿勢が強く、それが一人ひとりの進歩によって、ゴール数に表れているところだ。長谷部誠と遠藤保仁の2人は南アフリカの時と同様に安定していて、それぞれの持ち味に磨きがかかっている。南アで一躍ヒーローとして注目された本田圭佑がこのチームのトップ下で決定的なパスを出しているのが目立つ。
 対韓国の1点目、0-1を同点に長友佑都が長い疾走で本田からパスを受け、左外から内へ進入して前田にパス、前田が右足インサイドでしっかり決めた。長友がゴール近くまで持ち込んだコースもパスもパーフェクトに近く、長友と彼を追う韓国側の位置を見て、前田遼一がやや後ろ目にポジションをとったのも申し分なかった。
 2人の決定的なシーンでの好プレーだが、この決定機を生み出したのが本田のパスだった。香川真司からの短いパスを左サイド近くで受けた本田はドリブルを仕掛け、立ち止まり、相手も立ち止まらせておいて、左足で送ったスルーパスはタイミングもコースも強さもこれ以上はないというほど素晴らしかった。
 本田は若い頃から体が強く、立ったままでも左足で強いタマを蹴ることができたが、その原型を生かしたこのときのパスには、試合を見た人は等しく感嘆したハズだ。

 カタール戦の1点目、これも0-1からの同点ゴールは、@本田から出たDFラインへの裏のボールを、A岡崎慎司がいいダッシュで走り込み、B飛び出したゴールキーパー、カセムの上を抜き、C落下するボールを、香川が走りこんでヘディングで決めた。
 本田にパスを送ってすぐゴールへ向かってスタートを切った香川のランと、岡崎の得意の飛び出しの合作によるフィニッシュだったが、香川からのパスをダイレクト(ワンタッチ)でゴール前へ送り込んだところが“ワザあり”だった。得意の左足で小さく浮かしたボールは相手の誰にも妨害されず、岡崎が走る前に曲がって落下した。相手のDFを前にしながら、心憎い落ち着きと行き届いた配慮が見えた。
 2点目は本田からゴール正面の岡崎へのパスに始まり、岡崎がエリアいっぱいで胸のトラップ。そのボールが相手DFに当たって落ちたのを、すぐ近くへ走り込んでいた香川が奪って大きく縦に出てDFをかわし、そのまま左足でシュートを決めたもの。2人の俊敏さと香川のシュート力が生きたが、香川はこのとき、飛び出してくるGKカセムの姿勢からグラウンダーではなく浮かそうとして、それが成功して肩口を抜いた。
 フィニッシャーの功績はもちろんだが、仕掛けのパスを本田が送るときに、右の遠藤からの短いパスをいったん止めてキープし、岡崎の動きに合わせて左足で胸の高さのボールを蹴ったところに注目したい。ワンタッチのパスもあれば短いキープのあとも――と、ときに応じてタイミングを計れるところ、そしてそれを成功させるところがいい。
 骨太で相手の接触プレーを持ち堪えられる本田は、プレーメーカーとしては、これまでの日本でも少ないタイプだろう。98年ワールドカップで優勝したフランス代表のジネディーヌ・ジダンが、その体の強さと大きさでそれまでのプレーメーカーの印象を変えたが、本田も彼の系譜に入るかもしれない。ジダンといえば98年の対サウジでみせたピボットターンのあと、左サイドのビセンテ・リザラズを走らせたスルーパスを絶賛されたが、対韓国戦で本田が長友に送ったのもそれに匹敵するスーパーピボットの好パスだった。
 本田のプレーメーク、ラストパスに行数を費やしたが、遠藤や長谷部の組み立ても別の味がある。カタール戦の3点目は長谷部の香川へのパスが決定機の始まりで、これまた見事だったが、その前に遠藤が右の伊野波雅彦の上がりを待つキープをしたように見えた(後方からのファウルで潰されてボールが長谷部へ転がった)。伊野波は、香川がボールを受けた時には、香川のラインまで前進していて、こぼれ球を決める殊勲だったが、彼の意欲もさることながら、その上がりのタイミングをつくったのが遠藤だとも言える。いろいろな個性の揃った代表の攻撃は、いま、とても面白い。
 香川の早い回復を祈りつつ。


(サッカーマガジン 2011年2月15日号)

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