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番外編 もうやめにしたい“予選リーグ”と“決勝トーナメント”

“予選”はとっくに済ませたのに

 この号が発売されるころには、シドニー・オリンピックのサッカー・トーナメント(正確にはフットボール・トーナメント)で日本代表は1次リーグの2試合を済ませている。そのころには、準々決勝進出の見当がついているハズ。
 従って、メディアのなかには“予選リーグ突破”“決勝トーナメント進出”あるいは“危うし決勝トーナメント進出”という見出しが躍っているかもしれない。
こういう見出しやテレビの表現を見たり、聞いたりするのだろうと思うと(すでに“決勝トーナメント進出への目算は”といったのを目にしている)、それだけで砂をかむような思いがする。
16チームで争うオリンピックは、4チームずつ4組に分かれ、各グループ内でのリーグ(1回戦総当り)によって各組の上位2チームを決める。
 その合計8チームが準々決勝、準決勝、決勝(3位決定戦)へと進むノックアウトシステムと呼ばれる勝ち上がり方式によってメダルを争うことになっている。
 オリンピックのフットボール・トーナメントがこの形になったのは、1960年のローマ大会から。日本協会(JFA)は1964年の東京オリンピックのときに、各組のリーグは「1次リーグ」あるいは「グループリーグ」と呼ぶことにし、「予選リーグ」と呼ぶのは世界各地で予選を経てきていることから、“不適当”であると決めていた。
 ところがメキシコ大会(1968年)以降に、オリンピックは地域予選で負け続けたものだから、日本では大会での正しい呼称が忘れられてしまう。
久しぶりに出場したアトランタでは、いつの間にか“予選リーグ”がまかり通ってしまった。


98W杯は1次リーグ

 ワールドカップでも“予選リーグ”が横行していたが、幸い1998年のフランス大会に出場権を得て、その組合せ抽選のあった1997年12月から“1次リーグ”の呼称に戻ることができた。
これは、組合せ抽選の当日、岡田武監督が自分の口から「1次リーグ」という表現を使ったこと、またメディアも、あの死に物狂いのアジア予選を目にしていた直後だったという事情もあった。
 さらには、フランス大会で予選という言葉を使うことの不適切を理解したこと、そして“予選リーグ”を“1次リーグ”と変えても、字数の上ではまったく影響のないこと、などもあったのだろう。
 ただし、私はこのときに日本代表チームの関係者から、「日本代表は1次リーグを突破して、第2ラウンドへ進出したい」というふうに語ってもらった。ここで“決勝トーナメント”という不適切な言葉を消すことを望んだのだ。もっとも、メディアは“第2ラウンド”を無視したらしく、“決勝トーナメント”は居座っている。
 この決勝トーナメントという言葉は、FIFAの大会規定にはどこにもない文言だが、実は日本協会の役員も間違って使っているのだから、簡単には訂正できそうにない。
その間違いも、1964年東京オリンピックの準々決勝以降の成績を掲載した協会広報にわざわざ“決勝トーナメント成績表”としているのだから根は深い。もっとも、このころは私自身もあまり強く意識しなかったから、同罪ということになろうか――。


“準々決勝”という日本語がある

 私の目論見(もくろみ)では、今度の大会で日本がDグループの上位2チームに入れば、次は“準々決勝”だから、難しい決勝トーナメントという言葉をメディアは使わなくて済む。
もともと決勝トーナメントというのは、ワールドカップでも16チームのときは使わなかったが、24になり、32になって使われるようになった。第2ラウンドの1回戦が準々決勝(8チーム)でなく16チームによる1回戦で、適当な語彙が見つからないままつい間違った記憶がよみがえったといえる。
 このことは2002年ワールドカップにも関連がある。9月13日に販売の方式が発表された入場券には“決勝トーナメント”という表記はなく、“第2ラウンド(セカンド・ラウンド)”というFIFAの字句どおりになっている。
 そのことで、これまで“決勝トーナメント”になじんできた日本のファンはまごつくことがあるかもしれない。
 日本が開催国となり、日本発のニュースが世界に伝わる時代にサッカーもなったのだから、私たちメディアも、それに即した言葉を探し出さなくてはなるまい。
 サッカーの発展には、メディアのバックアップがとても重要なのだから――。


(週刊サッカーマガジン2000年10月4日号)

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