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ミュンヘン→カイザースラウテルン:ミュンヘンでの出発の遅れをフランクフルトの親切で取り戻す

 開幕前の寒さがウソのように一気に暑くなった。花の一部なのか、花粉なのか、ここでは「ポーレン(ラテン語が語源で花粉の意味)」が空中を漂い始めると夏が始まるという。その季節がいま、気温30度のところもある。
 暑くなれば日本が有利とみたが、ここの暑さは湿気が少なくて、そうは行かず、乾燥地ゆえに、かえって不利だったかもしれない。
 6月9日にスタートした大会で、13日までミュンヘンフランクフルト、ライプチヒ、カイザースラウテルン、ベルリンの5会場を回り、ナマで5試合を見た。そのうちのひとつが12日のカイザースラウテルンでの日本−オーストラリア戦だった。詳しくは別の機会に譲るとして、あと10分までリードしていて逆転されたのは残念至極――。
 ヒディンクでなくても、ノッポを2枚にして、その驚異のあとの戻しをシュートするのは普通の考えで、予測できること。ただし欧州でプレーする14人の選手の考えをまとめ、この暑さの中で走り回る力をつけたところが、韓国で成功した彼らしいところだ。


小野伸二の働き場所だったか…

 といって彼の方がジーコより良かったというのではない。82分に小野伸二が投入されて私などは、これで1点追加して2−0になると期待した。パスにこだわらず、自らペナルティ・エリア内に切り込んでくれれば良かったという場面があっただけに、仲間が疲れているときに登場した逸材がその才能を発揮して日本に勝利をもたらさなかったのは、彼のためにも惜しいことだった。
 点を取ることがサッカーでは最重要で、そのためのトレーニングが大切と長い間言い続けてきた者として「点を取るべきときに取れないと、こういう結果になる」などといまさら言う気もない。
 多くの指導者にはご苦労様だが、もう一度シュートの練習やパスの正確さを高めるキックの反復練習の大切さを考え、成長期の選手たちとともに取り組んでほしい。ここでの試合を見れば、体格が良くなったといっても日本選手と欧州勢との体の大きさとパワーの差をあらためて知るべきだろう。といって、それが大ハンディでなく、逆に機敏性に勝るという特徴でもある。それを結びつける技術を高めること。そのためには伸び盛りの時期に、どこまで基本技術を高めるかである。
 いまの代表の力は分かっていても、彼らが大舞台で自らをステップアップさせることを望んできた。
 いまは、そこに到っていないが、次のクロアチア戦やブラジル戦で、それを果たしてほしい。
 入手困難の切符を手に入れ、ドイツまではるばるやってくるサポーターのためにも、テレビの前で気を入れてくれるファンのためにも、自分のためにも、プレーヤーは、もう一皮むけてほしいと期待している。


テロ対策の厳しい検査

 こんどの旅で、あらためて人の流れ、物の動きの規模が大きくなったことを感じた。32年前の西ドイツ国内の移動は飛行機が快適で早かった。今回もそれにならってみたが、どこの空港も大きくなり、荷物の検査が難しくなり、引っかかる人が増えて、待たされる時間が長くなっている。
 ミュンヘンからフランクフルトに飛ぶときに、警察の特別検査で私の搭乗機の出発は2時間半遅れてしまった。テロ対策のひとつで誰も文句を言えないのだが、この遅れはこたえた。
 かつて機能性を誇ったフランクフルトは、拡張、また拡張の大空港となって、構内でこちらが歩く距離も長くなった。
 夏の観光シーズンと重なったため、ホテル事情も厳しく、この値段でこの部屋か、と驚くことになった。
 そうした中でドイツ人の「ガストフロイントリヒカイト(人をもてなす親切な心)」はまだ健在のようだった。
 前述のミュンヘンでの遅れをフランクフルト空港で取り戻そうと、空港のFIFAインフォメーションデスクに頼んだら、特別にボランティアの運転による車で、スタジアムのプレス入り口まで送ってくれた。旅行用の大きなかばんを持ってプレスルームに入って記者仲間を驚かせたのはこうしたスタッフのおかげだった。
 カイザースラウテルンからフランクフルトまでの列車のレザーブレートの向かいの席に熊本の阿蘇で酒造業を営む河野さんという上品な婦人と言葉を交わした。イングランド対コスタリカの切符を一枚入手したのでやってきた。現地で日本の分も手に入れて対オーストラリアも見た。サッカーは初めてだが、格闘技さながらの激しさと、会場全体の応援の雰囲気に魅せられた。
 こんな面白い楽しみがあると知ったのはとても幸せと言っていた。勝っても負けてもワールドカップはワールドカップ。日本にまたサッカー好きが増えた。


(週刊サッカーマガジン 2006年7月4日号)

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