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カイザースラウテルン→ニュルンベルク:この試合をうまくやるのではなく、この試合でうまくなることを

ディー・ベルト紙の見出し

 日本対クロアチア戦の前半22分、レフェリーがPKを宣告したとき、日本選手の何人かがゴールポストそばのボトルに歩み寄って水を飲んだ。普通なら、まず川口能活に声をかけるのが先のハズだが、それよりも水に向かったのは、よほどノドがヒリついていたのだろうと思った。
 前回の2002年日韓大会は、湿った空気のなかでの高温で、欧州勢が苦労したが、今回は乾燥した暑さが日本選手を苦しめている。
 30度の炎天下の試合は結局0−0の引き分けだった。高級紙「ディー・ベルト(DIE WELT)」が連日8ページの大会特集を出している(のもちょっと驚きだった)が、その中でこの0−0に「Festival der Fehlschusse(フェスティバル・デア・フェールシュス)」の見出しをつけた。直訳すれば「失敗シュートのお祭り」となるのか。ミス・ショットの連発はキーパーの活躍もあった。193センチのプレティコサの構えは大きく、ゴールが小さく見えた。ノッポのクロアチアの壁は高く、キッカーから9.15メートル離れていないように見えた。中村俊輔のFKも神通力はなかった。
 となれば、細かく早くつないでの崩しは? 加地亮か。ジーコが買う彼の最大の武器の速さで右から進入し、中へ早いパスを入れて柳沢敦が合わせた。加地のボールが速過ぎたのか、この横からくる速いボールに柳沢は合わせきれなかった。アレックスも高原も狙ったがダメ、福西は前半で退いた。彼は第1戦でも、うまい飛び出しで2本シュートチャンスを持ち、この日もチャンスポジションに入ったのだが…。
 あれも惜しい、これも惜しいといえばキリがない。相手側には日本よりももっと有利なフリーシュートの場面もあったから、クラスニッチにちょっとツキがあれば、点を取られてもおかしくない場面もあった。川口のPKファインセーブを含めて、この日の試合ぶりは、日本側もクロアチアも、暑さの中でよく戦ったと言えるし、引き分けは日本側から見れば、まずまず――。
 こうなると第1戦の1−3、2点差が重くのしかかる。
 ここらあたりに、1次リーグ全体を通じての選手の戦いぶりが、あらためて問われるのかもしれない。
 勝っている試合をあと10分で同点にされ、さらに2点を追加されたこと。その日本−オーストラリア戦の点差を頭に入れて、クロアチアが次の日のブラジル戦で、引き分けでなくても最小失点で乗り越えたこと――などを考えると、ちょっと1−3は、もったいなかった。


それでも挑戦

 DIE WELTは小見出しで、「引き分けによって、両チームともベスト16への望みを残した」と報じている。クロアチアの望みはともかく、日本の相手はブラジルだから、そう簡単に果たせる願いではないが、多くのドイツ人、ドイツ記者には、昨年のコンフェデレーションズカップでの日本−ブラジルや、大会直前の日本−ドイツの印象があって、難しくても挑戦してみる価値があると見ている。
 長い間、大会といえばノックアウトシステムが続いていたために、日本では「負ければそこで全て終わり」の考え方が習慣的になっている。いまでも“ノックアウトシステム”のことを“トーナメントシステム”(大会)という人が多いことと関係が少なくはない。
 ワールドカップの1次リーグは3度戦うチャンスがある。その3試合目にまだベスト16進出の望みがあるのは、そこが98年と違って楽しいことである。DFはメンバーぎりぎりという問題もあるが、せっかくの機会にプレーヤーたちが十分にいいプレーを見せるだろうと思っている。


研修団の人たちの収穫と

 ことし第2回のサッカー殿堂入りした二宮洋一さん(故人)という名CFはボクの7歳上の先輩で――、1940年の幻の東京オリンピックのころが全盛で、大きな世界舞台を経験できなかったが、慶應大時代に1日100本のシュート練習を重ねた得点力は戦後でも多くの人が感嘆した。彼が私にいつも言っていたのは、「うまくやろうと思わず、うまくなろうと思え」――この試合でうまくやるのではなく、うまくなるのだという考え方だった。日本のプレーヤーが重要な試合でより上手になってほしいと思う。
 日本戦の次の日、スイスとトーゴの試合があった。ドルトムントからボンへ帰るときに駅で、(JFA日本サッカー協会)のコーチ研修で観戦に来ていた人たちに出会った。
 スイスの選手たちの演じた極めてシンプルな攻撃、クロスをファーに送り、折り返しで決めて先制ゴール。双方が疲れた終盤に、交代出場の選手が自ら左サイドで突っかけ、そこへ相手の注意をひきつけて、右のフリーのスペースからのシュートで奪った2点目。研修団がいいサッカーを見て、収穫を多くしてほしいものだ。


(週刊サッカーマガジン 2006年7月11日号)

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