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ミュンヘン→フランクフルト:「高く、強く、速く」の時代へ。32年前に比べて大型化の進む北ヨーロッパ

ドイツの攻撃に気をよくして

「禍福は糾(あざな)える縄の如し」か――。
 6月10日、ミュンヘンからフランクフルトへ向かう機内でそう思ったものだ。
 前日の9日の開幕試合で、ホームのドイツ代表が力強く、いいプレーををして勝った。コスタリカもドイツの守りの“ほころび”を突いてワンチョペが2ゴールを奪った。守りを厚くしてカウンターというコスタリカにとっては狙いどおりの展開のはずだったが、その守りから4点を奪ったドイツの攻めもなかなかのもの。
 守備網の外からのシュートが、1点目のラームと4点目のフリングス。シュバインシュタイガーの飛び出しによるエリア内侵入と、その速いパスに左ポスト側で合わせたクローゼの2点目と、そのクローゼが右ポスト側で右からのクロスに合わせてヘディングし、GKに当たったりバウンドを決めた3点目――というふうに、コースも技術もさまざまだった。
 クローゼがプレーをしたあと、相手ボールになったのをすぐに絡みに行くのが目に付いた。もともと姿勢がいいから、次の動作に早く移れるのだろうが、相手の危険地帯で動作が一つで終わらないところに、昨季のブンデスリーガでの好成績(得点王)があるかもしれない。
 互いに用心して、守り合いになりがちな開幕試合が面白かったから、なんとなくウキウキした。
 そんな興奮からか、11時に寝て、夜半に二度、目を覚ましたのに5時前には起きてしまう。
 バゲージを整理し、6時40分にはホテルを出て、歩いてミュンヘン中央駅へ。窓口で8ユーロの切符を買い、地下へ降りて1番乗り場(GEIL1)でS8の空港行きに乗る。荷物を持った一人旅でも、手順よく運ぶと気分はいい。


テロ対策の特別措置

 予定より1時間早く空港に着き、チケットを見せ荷物を預けると、「1時間半以上あるので、もう1便早いのに乗れます」と係が進めてくれる。“それじゃあ”とGATE24へ急ぐ。
 カートにリュックサックなど持込み用を乗せて急ぎながら、チラリと“こういう(手際よく運ぶ)ときには落とし穴があるかも”との思いが頭をよぎる。
“チラリ”の不安は的中して、8時過ぎに飛び立つ機体が、9時になっても動かない。やがて“ポリツァイ(警察)の要請で特別の機内検査、荷物検査をします”とのアナウンス。自分の持込み荷物を手にして機外に出て、バスに乗って空港の特別検査室で再チェックをして、再び機内に戻ったのが10時15分だった。
 テロ対策という“錦の御旗”には、誰も不満は言わないが、当方とすれば、フランクフルトに着き、中央駅へ出て、ホテルでチェックインを済ませたうえで、シャトルバスでスタジアムへ――というスケジュールが怪しくなってくる。なにしろ、記者用のスタンドの入場券(座席券)を、キックオフ90分前までに受取るようということだから、いささか困ったことになったと――。
 そんな気持ちを明るくしてくれるのが、窓外の風景。ミュンヘンからフランクフルトへ飛ぶのは初めてだから、うまくいけばライン河とマイン河の両方を見られるぞ――との期待は、晴天のおかげで十分に果たせた。そしてまた、遅れた時間を取り戻す問題は(7月4日号で一部掲載)空港のFIFAデスクの計らいで、ボランティア運転のバンで送ってもらうことで解決された。車寄せからスタジアムまでの道を、バゲージをゴロゴロ引きずって歩きながら、旅の一日の中での禍福を噛みしめていた。


イングランドの超ノッポ

 午後3時、暑く明るい強い陽射しの中で、スタンドは晴れやかに国家を歌った。整列する両チームの中に、ひときわ目立つノッポがいた。イングランドのクラウチ(198センチ)だった。彼ほどではないが、イングランドには、ジェラード、ファーディナンドといった188センチの長身がいて、182センチの主将ベッカムが小柄に見える。
 両チームの身長比較のメモを付けながら、プレスルームで(私が9回目の大会取材と知った)テレビ局の質問「32年前と、いまの違い」に対して答えた中に、“選手の大型化”を挙げたことを思い出していた。そう、かつては6フィート(184.8センチ)といえばイングランドでも大型選手、66年の優勝チームでも、センターバックのジャッキー・チャールトンぐらいだったのに――。
 前日のドイツもそうだが、もともと体格のいい北ヨーロッパの各国が、長身、大型選手の能力アップによって、6フィートは当たり前、6.5フィートまで現れるようになった。その影響が一つの興味――と私は語ったのだが…。
 キックオフからしばらくして、イングランドはベッカムのFKで先制点を挙げた。彼の高い強いボールを、ヘディングしようとジャンプしたパラグアイのセンターバック、ガマーラが自分の頭に当てたオウン・ゴールだった。そこに身長差のあるクラウチの影があったのかもしれない。


(週刊サッカーマガジン 2006年8月22日号)

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