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ニュルンベルク→シュツットガルト:ガーナ、アフリカの新風。ドイツ大会16強の基盤はスピードと組織力

日本代表の健闘と得点力

 キリンチャレンジカップ2006のガーナ戦(10月4日、横浜)はとても面白かった。ガーナ代表は合同練習もほとんどなしに、試合直前にやってきたというハンディを負っていた。しかし、彼らの多くはワールドカップ以来久しぶりに顔を合わせた喜びと、16強入りした自信を背にドイツ大会さながらのプレーを披露してくれた。
 同じにしアフリカでも、ナイジェリアのカヌやオコチャのような意表をつく個人プレーの魅力というより、速さと運動量がここの代表の特色。ボールの奪い合いのとき、接近のスピードを緩めずにぶつかってくる感がある。6月17日のケルンでのグループステージ第2戦でチェコに完勝したときは、チェコ側は接近の速さに手を焼き、ファウル気味の接触プレーに辟易したように見えた。
 そのガーナに、日本代表は気迫で負けず、ボールの取り合いでも粘り強かった。動きの量も多く、積極的に攻撃をしたからゴールは相手の1点だけだったが、90分間は緊迫のうちに過ぎた。山岸智(23歳)や水本裕貴(21歳)たち新鋭も良かった。今野泰幸がディフェンスラインに入ったとしても、本格的に代表に登場したのは喜ぶべきことだった。私のジーコへの数少ない不満の一つが、今野を代表に加えなかったことだったから――。
 得点できなかったのはいつもどおりと言うべきだろうが、このクラスを相手に、全員の動きでシュートチャンスを作れるようになったのだから誠にもったいない。
 ラストパスやシュートの前のトラップ、仕掛けのドリブルの最初のタッチ、さらにはシュートそのものにも個人技術の上での問題があった。これを改善しなければ、ゴールを生むのは難しい。巻誠一郎や佐藤寿人たちは、トップからの守備の仕事もあって大変だが、うまくいかなかったところを検証し、練習しなくてはなるまい。
 ガーナのフランス人監督のルロワさんが記者会見でパスについて語ったときに、「3番目のボールが重要」と言ったのは面白かった。日本では、3人目の動きとか、3番目の動きというように走る人のことを言うが、ルロワ監督はそこへ出るボールのことを言った。日本のコーチたちへの示唆になるはずだ。
 この試合では、ガーナの浅い守備ラインによって、日本側は8回のオフサイドを取られた。ワールドカップで彼らは、浅いラインをブラジルに突破されて完敗した。いずれその話は旅の連載の中で取り上げることになる。


アルゼンチン、25本のパス攻撃

 さて2006年ワールドカップ・ドイツの旅――前回(10月10日号)では6月16日にシュツットガルトへ向かう車中で、前日のイングランドの第2戦(対トリニダード・トバゴ)を回想したところだった。この日の私の目的はシュツットガルトでの、18時からのグループC第2戦、オランダ対コートジボワールの取材だった。この町はニュルンベルクから鉄道で2時間余りのところ。自動車産業で知られているが、古くからのサッカーどころでもある。1950年11月22日に、大戦後の国際復帰を許された西ドイツ代表が、最初の国際試合(対スイス)を行なった記念の地でもある。ネッカー河近くにあって、ネッカー・シュタディオンと名づけられた競技場に集まった10万3000人の大観衆は、今も記憶として残っている。
 74年大会当時も、ここでグループリーグ第4組の試合が行なわれ、私はポーランドがイタリア、アルゼンチンを破り、アルゼンチンとイタリアが引き分けるのを見た。そのネッカー・シュタディオンは、ゴットリーブ・ダイムラー・シュタディオンと改名して、5万4000人収容の現代的な競技場となった。
 新しいスタジアムで私が最初に見たのはメディアセンターのテレビに映るアルゼンチン対セルビア・モンテネグロ戦。画面のアルゼンチンはリケルメを起点に縦横にパスをつないで6−0で大勝した。
 6分の先制ゴールはマキシ・ロドリゲス。サビオラが絡んだ。34分の2点目は圧巻で、25本のパスが組み合わされ、最後にはクレスポのヒールパスをカンビアッソが決めた。3点目もマキシ・ロドリゲスだが、1点目と同じようにサビオラが絡んでいた。
 後半にテベスが59分から加わり、メッシが58分に登場した。マラドーナと体型の似たテベスも、自信満々に見えるメッシも、クレスポとともに1ゴールずつを加えた。全体的に力が制している感のあった大会が、アルゼンチンによってテクニックとスピードに目を向けさせた。
 18時からのピッチ上の試合は、オランダが2−1で勝った。第1戦ではロッベンへスルーパスを送ったファンペルシーがFKで先制し、動きの鈍かったファンニステルローイがビューティフルゴールを叩き込んだ。
 今日はいいものを見た――帰りの列車の中では、満ち足りた気分だった。


(週刊サッカーマガジン 2006年10月24日号)

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