賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >ベルリン→ニュルンベルク:カカーの右足シュートの確かさと負けても粘るクロアチアの執着心

ベルリン→ニュルンベルク:カカーの右足シュートの確かさと負けても粘るクロアチアの執着心

日本サッカー、「縦への深み」

 9月10日に開催された第3回の日本サッカー殿堂掲額式で、掲額者であるメキシコ・オリンピックにて銅メダルを獲得した横山謙三(よこやま・けんぞう)、森孝慈(もり・たかじ)、小城得達(おぎ・ありたつ)の3氏と、そのお仲間で故人となった渡辺正(わたなべ・まさし)、宮本輝紀(みやもと・てるき)のご家族におめにかかった。また、日本サッカーが草創期の頃の大先輩として掲額された坪井玄道、(つぼい・げんどう)先生(1852−1922年)のお孫さんたちとお話できたことはまことに幸いだった。
 川淵三郎キャプテンの下でJFAがスタートした「殿堂掲額」に刺激され、若いサッカー人の間に「温故知新」の動きが高まっているという。日本サッカーも横への広がりとともに縦への深みも出てきて、いよいよ楽しいものになるだろう。


連日移動の疲れで朝寝坊

 さて、ドイツ・ワールドカップ、前号は6月13日ベルリン・オリンピックの感慨でした。
 今回は6月15日にベルリンからニュルンベルクへ飛び、イングランドの第2戦(対トリニダード・トバゴ)の取材に出かけるところから――。
「昨日は失敗したな。やはり連日移動でいささかくたびれたらしい」と思う。
 6月15日、ベルリンのテイーゲル空港12時20分発のLH334便はニュルンベルクに向かっていた。
 前々日の13日はベルリンでブラジル対クロアチアを見た。21時キックオフでホテルに戻ったのは深夜。翌日の目覚めはめずらしく遅くなってしまい、ライプチヒで行なわれたスペイン対ウクライナの取材を取りやめるハメになった。
 ナマのシェフチェンコを見られないのは残念だった。しかも、ホテルのテレビで見た彼はシュートを1本も打てず、ウクライナは0−4で負けてしまった。
 夜のテレビでは、粘るポーランドにドイツが手を焼いていたが、引き分けに終わる寸前にオドンコールのクロスに合わせたヌビーユのゴールで勝った。2勝目を挙げてグループステージ突破を決めたが、ポーランドの頑張りには胸を打つものがあった。エクアドルとの第1戦に敗れていたポーランドは、なんとか引き分けにして望みをつなぎたかったのだろうが……。


ポーランドとクロアチアの粘り

 移動なしのテレビ観戦で体を休めることができたためか、飛行機の中でのメモの書き込みの際にも記憶の戻りが早い。ポーランドの壮絶な粘りから、その前日のクロアチアのすごい頑張りに思い至る。
 13日のブラジル対クロアチア戦のノートを開くと、久しぶりにナマのブラジルを見たためだろうか、プレー・バイ・プレーの書き込みはA4版9ページにも及んでいる。
 そして最後にこうメモしている。
「オーストラリア対日本が3−1と2点差になったことで、クロアチアはブラジルに敗れるにしても1点差で止めておきたかったのだろう。前半の終わりごろに1点を失った後もあきらめることなく、よく相手に絡み、終盤にはゴールを奪いそうな気配もあった」
 クロアチアやポーランドの頑張りに対する賞賛は、裏を返せば、日本チームへの自省自戒でもあるのだろうが……。


ロナウジーニョのドリブルとパス

 ブラジルのメモでは、69分にロナウドがロビーニョと交代し、ベンチに退くときに“口笛”とあり、“当然”と書き込んでいる。この日のロナウドはさっぱりで、アドリアーノも併走する相手の右腕を自分の左腕で引っ張りながらドリブルを続けて笛を吹かれるという強引さを見せたが、スピードはいまひとつだった。
 二人のストライカーの出来が悪ければ、さしものブラジルの攻撃力も落ちて当然だが、ロナウジーニョのプレーは相変わらず楽しみがいっぱい。彼の天下一品のドリブルとともに、私が好きなのはそのドリブルから突如として繰り出されるキックの正確さである。
 右足のリーチの長さを生かす、横向き、あるいは斜めを向いた体勢からトップの足元、あるいはDFの裏へと送り込むボールは、その強弱、高低、コースの全てに神経が行き届いている。
 カカーはボールにタッチするときの形《姿勢》が美しい。この日、唯一のゴールは44分に彼がペナルティエリアの外、中央から決めたもの。カフーからの横パスを受け、相手のタックルを左へかわし、左足のサイドキックでカーブをかけて左上隅近くに蹴り込んだ。
 仲間が相手ボールを自陣で奪い、右へ振ってカフーに落としたとき左から中へ入り、敵陣の中央あたりでボールを受けた。このコースの取り方で、自分が得意とする左前を空白にしたところに賢明さがあるのだろう。もっとも、ディフェンダーがボールを受けたときにトゥドールが対応すべきだったが、先にクラニチャルがカカーの右側からタックルに行って左の得意地域へ流したのがまずい――と言うべきかもしれない。
 ロナウジーニョとカカーのプレーを反芻すると、2トップへの不満も、前評判の高いときほどワールドカップでのブラジルは危ない――といったジンクスもしばらくは消えてしまうのが不思議だった。


(週刊サッカーマガジン 2006年10月3日号)

↑ このページの先頭に戻る