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ニュルンベルク→ドルトムント:加地−柳沢の局面でのパスを出す側とストライカーとの呼吸を考える

アレックスの十八番+1?

 10月11日のアジアカップ予選のインド戦は、播戸竜二(G大阪)の2ゴールという関西人にはうれしい場面があった。
 この2得点のラストパスは2本ともアレックス(浦和)からだった。1点目は、彼の得意の左サイドから斜め右前へ送るボールで、先のガーナ戦でも巻誠一郎(千葉)のヘディングシュート(得点とならず)を生んでいる。今回はグラウンダーで、そのパスの線上、ニアサイドの巻が左足ダイレクトスーとに行って空振りし、ファーサイドにいた播戸が決めた。巻の空振りが一種のフェイクになったから、播戸には“いただき”だったが、二人のFWがパスの同一線上に入ったところに、このゴールの面白みがあった。
 2点目は左から右へゴール前を振ったあと、右サイドにいたアレックスが右足で播戸のニアへの飛び込みに合わせた。1点目の角度はアレックスの十八番だが、2点目のようなゴールラインと平行の右足ライナーは、例が少ない。サイドの攻撃で、クロスの正確さとバリエーションの少なさが、代表チームの長い間の課題だが、アレックスに右足ライナーのアシスト記録が増えた。それが、もう一つ上のレベルで通じるかは別としてもである。
 さて、2006年ワールドカップ、ドイツの旅の続きを――6月19日、月曜日の朝、5時のモーニングコールに起こされ、5時半にホテルを出た。ニュルンベルクの郊外の小さな町、フュルトの小さなホテル「NHフュルト」での4泊はとても気に入っていたが、その滞在の主目的だった日曜日の日本対クロアチア戦は0−0の引き分け。グループFの突破はいよいよ苦しくなっていたから、バッゲージを持っての旅立ちの朝の気分もいささか暗いものだった。


最大のピンチに川口の働き

 この日の旅程は、IC(インターシティ)特急でボンに出て、ホテル・ブライトンに荷物を預け、そこからドルトムントへ向かってグループGのトーゴ対スイス戦(15時)を取材した後、ボンへ戻るというもの。ニュルンベルクからケルン(ボン)まで3時間、ボン−ドルトムント間は1時間40分くらいだから、決して短い旅ではない。それでも、ファースト・コンパートメントは、原稿を書くには申し分がない。
 そこで、あらためて前日の日本対クロアチア戦を振り返る。手元の公式記録では、次のようになっていた。

▽得点     0対0
▽シュート数  12(日)−16(ク)
▽ファウル   19−18
▽CK     5−11
▽直接FK   3−0
▽PK     0−1
▽警告     3−2
▽ボール支配率 56%−44%
▽マン・オブ・ザ・マッチ 中田英寿

 日本の最大のピンチは22分のPK。相手のGKプレティコシャ(ハイデュク・スプリト)のロングキックが、ペナルティ・エリア外15メートルに落ちて、高くバウンド。その落下点で宮本恒靖(G大阪)とペルショ(レンジャーズ=スコットランド)が取り合い、エリア内で宮本が伸ばした足が、体を入れにきた相手の足に絡んで反則を取られた。
 このPKをスルナ(シャフタル・ドネツク=ウクライナ)が、右を狙って強いシュートを放ったが、川口能活(磐田)の読みと、低い姿勢のセービングのうまさが得点を阻んだ。
 日本の最大のチャンスは、後半始めに加地亮(G大阪)が、高原直泰(フランクフルト=ドイツ)からのリターンパスを受けてペナルティ・エリア内の右寄りを縦に駆け抜け早いクロスを送ったときだった。ボールは一直線に柳沢敦(鹿島)へ。GKプレティコシャはニアサイドに寄っていたから、ゴールは問題なしというところだったが、ボールは柳沢の右足アウトサイドに当たってゴールから外れた。
 加地はこの試合で、三度、スピードを生かして右サイドを突破してクロスを送っている。1本目はファーサイドの小笠原満男(現・メッシーナ=イタリア)を狙い、2本目はハイボールにしようとしてDFに跳ね返され、この場面は3本目だった。
 なぜ、この場面で柳沢が足首を立てたのか。ひょっとすると、加地の走り込んだ角度から見て、シュートすると判断したのかもしれない。もしそうなら、加地の走って受けてクロスという、電光石火のクイックプレーには心と体の準備ができていなかったかも――。
 パスを出す者とストライカーの「あ・うん」の呼吸がなければ、GKの能力が高くなった、現在のサッカーのトップ級の試合で点を取ることは難しい。かつてはこういうシーンでは、ストライカー側の要求にパスを出す側が合わせるのが普通だった。しかし、いまの日本では、どちらかといえば、パスを出す側の都合でボールを送られることが多い。
 この場面を単なる柳沢のミスで片付けるのではなく、パスを出す者とストライカーの連係にまでさかのぼって考えてみたいと思った。いい試合だったが、こういう公式戦では結果が全てになってしまう。


(週刊サッカーマガジン 2006年10月31日号)

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