賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >ケルン→フランクフルト:終盤のGステージ、次の対戦相手をにらんでの首位争いに強国の余裕と意地を見る

ケルン→フランクフルト:終盤のGステージ、次の対戦相手をにらんでの首位争いに強国の余裕と意地を見る

滝川二高のシュート

 10月9日の高円宮杯決勝で、滝川第二高校が名古屋ユースに3発のビューティフルゴールで快勝し、U−18の日本一になった。
 今年で同校の監督を退く黒田和男(くろだ・かずお)先生は筑波大出身で、卒業してすぐ神戸FCのコーチとなった。彼とは70年代からの付き合いである。
「自分は性格がのんびりして、牛のようだと言われているが、ゆっくりの歩みでも着実に取り組んで成果を積み上げたい」という若い指導者に期待をかけたものだ。
 滝二へ移って全国レベルのチームを作り上げたが、優勝はまだだった。
「日本一に近づいてはいるが、そこから勝てないんです」という語が出たとき、“シュートの練習をどこよりも多くすれば”とアドバイスした。
 2年前だったが、「得点が増えた」と喜んでいたが、高円宮杯の決勝をテレビで見ると、まさにシュートの勝利だった。シンプルで早い展開でノーマークを作り出したのも良かったが、何よりも、エリア外からシュートするときの思い切りの良さと、それでいて力みがなく自然に蹴っているところに、練習の成果を感じた。黒田先生、ありがとう。
 各国選手のいいシュートの度に、わが身と比べ無念に思ったドイツ大会の苦味が、少し薄れてきた。


大会で一皮向けたジョー・コール

 そのドイツの旅。グループステージも、いよいよ3巡目――。ボンに滞在中の私は、6月21日にフランクフルトへオランダ対アルゼンチンという、グループCの首位争いを取材しに出かけるところです。
“これで今日はOKだな”
 朝8時半、ボンの中央駅でフランクフルトへの往復リザーブシートを買って、やれやれ――出発が14時14分、約2時間で着き、帰りは午前0時3分発。ボン着が午前2時となっている。
 ボンのホテル・ブリストルは中央駅に近く、設備も朝食も悪くはなかった。英国の港町の名を冠している由来は知らないが、フランス大会でボルドー近郊の同名のホテルに泊まったときも、とても感じが良かったのを覚えている。
 そのホテルに戻り、前日ケルンで見た21時キックオフのグループBの大一番、スウェーデン対イングランドを回想する。
 イングランドはウェイン・ルーニーが初めて先発で登場し、前半にデビッド・ベッカムの50mの長いパスを受けて、2人の相手選手の間を抜けてシュートまで持っていき、さすがと思わせた。
 ただし、この日の働き頭はチェルシーのジョー・コール。左サイドのMFとしてチャンスを作り、自ら先制点を決めた。そのゴールは、サイド攻撃の後の相手DFのクリアしたボールを、エリア外からボレーシュートでGKの頭を抜く、ゴール右上隅への見事なシュートだった。
 2点目は、彼が中央右サイド寄りでボールを取り、右へドリブルをしつつファーポスト側のフランク・ランパードの頭上へクロスを送り、パーフェクトなヘディングゴールを演出した。
 すでにジョゼ・モウリーニョ監督の下で、急速に伸びたといわれている彼が、ワールドカップの大舞台で一皮むけた。今や自信満々。この日のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのも当然だった。
 面白かったのは、試合中の互いのボール奪取がほとんど1対1だったこと。そしてスウェーデンのゴールが、1点目が左CKをニアでヘディング、2点目は左サイドからのロングスローをヘンリク・ラーションが決める、いずれもセットプレーだったことだ。
 イングランドは積極攻撃で引き分け、グループBの1位となり、決勝ラウンド1回戦でドイツ(グループA1位)と当たることを避けたが、ケガでマイケル・オーウェンをこの後欠くことになる。


巧さと速さを防ぐ、長いリーチ

 ボンからフランクフルトの列車は、学生のフランクフルト市内でのストライキのために20分近く遅れ、また、駅からスタジアムへのメディアバスの運行も狂ってしまった。結局、50分程度の遅れで済んだが…。
 セレステ(水色=アルゼンチン)とオレンジ(オランダ)の対戦は、78年大会決勝以来の両国の因縁もあって、対抗意識むき出しの激しいものだった。
 アルゼンチンのエルナン・クレスポとハビエル・サビオラの2トップに代わり、カルロス・テベスとリオネル・メッシの若い2人が登場したこと、アリエン・ロッベンをベンチに置いたオランダにどんな手があるのかが、私には興味があった。
 テベスは右利きだが、ディエゴ・マラドーナの体の強さを持ち、メッシの左足の巧みさはマラドーナのそれに似ていたが、どちらもオランダ人のファウルと長いリーチに手を焼いていた。ホセ・ペケルマン監督はメッシに代えて191cmの長身、フリオ・クルスを投入した。準々決勝での対ドイツ戦を想定してのことなのだろう。
 大きさと激しさが優位に立つこの大会で、アルゼンチンの速さと巧さは光っているが、0−0の結果は、前途は必ずしも楽ではないことを予感させた。若い彼らが大会中に一皮むければいいのだが…。


(週刊サッカーマガジン 2006年11月17日号)

↑ このページの先頭に戻る