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ハノーファー→ニュルンベルク:クリンスマンとドイツがスウェーデンに完勝、準々決勝進出に国中が沸き立つ

鈴木啓太、明神智和の新境地

 秋は実りの季節――J1でも終盤の順位争いに、それぞれのチームと個々のプレーヤーの進歩が加わって、とても楽しいものになっている
 日本代表が新しくなって、試合ごとに発見があり、U−19やU−21の国際試合で、「このプレーができるのだな」と知るのもありがたいことだ。代表へ入ることで新しい境地を開ける選手は少なくないが、浦和の鈴木啓太の充実ぶりはまことに頼もしい。代表をきっかけに、と言えば同チームの山田暢久も、ジーコ監督時代に右サイドに入りステップアップした。31歳の今も、流れを変え得る判断と技術を持つ重要なプレーヤーとなっている。
 G大阪に移った明神智和が、一時の停滞から抜け出したのも嬉しいことの一つ。守備感覚では今野泰幸(FC東京)の先輩格と言えるほどの天分を備えている彼が、攻撃力にも磨きがかかる途中で足踏みしていた。それが、G大阪という良いチームで再び伸び始めている。対清水戦(10月29日、29節G大阪3−0清水、大阪・万博)の2点目、マグノ・アウベスへの完璧なパスはその表れだろう。


インド料理店でのテレビ

 ドイツの旅は6月25日。すでに決勝ラウンドに入ったところ。ミュンヘンからニュルンベルクへ向かう車内で、例によって前日のドイツ対スウェーデンを振り返るところです。ミュンヘンの中央駅発15時10分、ICE722列車の27号車に私はいた。ニュルンベルクまで1時間の小旅行で、21時キックオフのポルトガル対オランダを見るためだった。
 24日はブレーメンからハノーファーへ出て、飛行機でミュンヘンへ飛んだ。中央駅に近い、ホテル・ラインボールドに止まり、ここを足場に16時の1回戦、ドイツ対スウェーデンを取材する予定だった。しかし、グループステージまでは受付けてくれた申込みが、ここから急に難しくなり、ドイツ戦の取材チケットはもらえないことになった。それならばと、大阪からやってきた本多克己氏ともう一人の友人と、ホテルに近いインド料理店で食事をしながら観戦した。
 食事中に記したメモは、さほど丁寧ではないが、冒頭に「グループステージを3連勝で突破したドイツの勢いは年来の強敵スウェーデンを相手に加速し、4分の先制点で一気に優勢となった」とある。
 ゴールを決めたのはルーカス・ポドルスキ。この8分後にも2点目を加えてしまう。ポーランド系の彼の得点を助けたのも、同系のミロスラフ・クローゼだった。
 ドイツの大衆紙ビルト(Bild)はタブロイドの日曜版1面に、彼の変遷とドイツ国旗をあしらい、国旗の黒地にSCHWARZ(黒)赤地にROT(赤)そして黄色地にPOLDi(ポドルスキの愛称)と書き込んでいた。POLDiの文字の横に金のトロフィーを置いたのは、POLDをGOLDと引っ掛けたのだろうが、まさにポーランド生まれの若者による大勝利をドイツ中が喜んでいることを表していた。


同系・異質の2人のストライカー

 クローゼは02年大会の札幌での第1戦でサウジアラビアに大勝(8−0)したとき以来、頑健なドイツ代表の中で、スリムでしなやかな選手と注目していた。05−06のブンデスリーガ得点王になった彼は、もう一皮むけた感じ。ペナルティ・エリア内での冷静さと姿勢の良さが、一つ競り合った後、つまりヘディングやシュートや、あるいは突っかけたときのリバウンドを奪う“巧さ”に表れていた。
 ポドルスキは180cmと、クローゼより2cm低いが、がっちりしていて、速く強いドリブルができる。英国のオブザーバー紙は「子どもが自転車で学校へ行くように楽々とDFの間を駆け抜ける」と書いている。2人のタイプの違うFWと、それを支援するミヒャエル・バラックたちの力がスウェーデンをねじ伏せた。
 74年の2次リーグでフランツ・ベッケンバウアーの西ドイツと2−4のシーソーゲームを演じた黄色のユニフォームは、ベルリン五輪とは言わぬまでも、古くからの日本の馴染み(1936年のベルリン五輪1回戦で、日本が優勝候補だったスウェーデンに3−2で勝利)だからと、私も一方では肩入れしていたが、退場者を出し、ラーションがPKを失敗しては、挽回のきっかけもつかめなかった。
 PKの前に選手交代をしてキッカーの“その気”をそいだ、スウェーデンのラーシュ・ラーゲルベック監督にも疑問があるが、94年大会でトマス・ブロリンたちに伍して新鋭として注目されたヘンリク・ラーションのワールドカップも、ここで終わるのだろう。新しいスターが現れるのと引き換えに、古いスターが去る。
 さて、今日のポルトガル対オランダはどうだろう――取材できなかった前日のショックも、その試合を回想し、26本ものシュートを打ったドイツのイキイキしたプレーを頭に描くことで、再び次の試合への意欲に変わろうとしていた。


(週刊サッカーマガジン 2006年11月28日号)

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