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ニュルンベルク:イエロー16枚。面白さと激しさとアグリーさの同居したポルトガル対オランダ

今野泰幸の攻撃力

 日本代表がサウジアラビアに3−1で勝った。1点目はCKから巻誠一郎(千葉)のヘディングシュートのリバウンドを、闘莉王(浦和)が決めた。2点目は右サイドへ飛び出した今野泰幸(FC東京)が中へドリブルしてゴール前へ送り、我那覇和樹(川崎F)が巧みなヘディングで叩いた。3点目は左サイドで今野泰幸が縦に送り、駒野友一(広島)が疾走して、中央へライナーのクロス。そこへ詰めたのが加地亮(G大阪)――彼が相手DFとともに潰れたところを、ファーサイドで我那覇が決めた。
 3点目の「パスのコースに2人以上が走りこむ」形はインド戦(10月11日、○3−0)でも見たが、チームの攻めについての共通意識と感覚が少しずつでき上がっているのだろう。
 多くのいいプレーの中で誰もが認めるのは、2ゴールに絡んだ今野の働きだろう。チーム2点目、右サイドを縦に出ると見せかけて内へドリブルし、左足で我那覇へ送ったパスも、3点目の組み立てのスタートとなった左サイドの駒野に合わせたボールも、彼の左足のキックの能力が表れていた。


ヨーロッパの北と南

 ワールドカップの旅――前回は6月25日にニュルンベルクへ向かう車中で、ドイツ対スウェーデン戦を回想しました。今回は、ニュルンベルクでポルトガル対オランダの、イエローカード16枚、退場4人という大荒れの試合を見るところです。
 前日の夜、ホテルのテレビでアルゼンチン対メキシコの試合を見て、両チームの選手のボールを止める巧さに感嘆した。イングランド対スウェーデン、ドイツ対スウェーデンといった北ヨーロッパ勢同士の対決は、トラップが大きく、そこへ相手の長い足が出てくる奪い合いが壮観である。一方、南米と中米のトップクラスは、体の下へピタリとボールを止めるから、受けた瞬間でのぶつかり合いは少なく、動き出してからの体の寄せと、腕の絡みが面白かった――。
 この夜のニュルンベルクでは、同じヨーロッパであっても、組織プレーの代表格・オランダと、南米的なポルトガル。
 今回のオランダは、マルコ・ファンバステン監督の下、まとまっているという評判だった。スピーディーな動きはさすがだが、そのスピードの生かし方がどうかというところ。
 ポルトガルはルイス・フィーゴ、デコという馴染みの顔に、クリスチアーノ・ロナウドという新しい看板もいる。キックオフ前から上段の記者席で、ちょっとワクワクした気分だった。
 まずオランダが、アリエン・ロッベンのドリブルから、右サイドのマルク・ファンボメルのシュートがあって、スタンドのオレンジ・サポーターをどよめかせた。


マニシェのファインゴール

 23分にポルトガルが、マニシェの素晴らしいシュートで先制した。
 右サイドへ寄っていたクリスチアーノ・ロナウドが2人に囲まれながら、右タッチライン際のデコにパス。デコは一つ間を置いて、中央へライナーの速いクロス。それをパウレタが後方へ。走り上がったマニシェが取って、フィリップ・コクを前にして一つフェイクを入れて、右へわずかに外してシュートした。ボールは右上へ。GKエドウィン・ファンデルサールにキックの瞬間は見えたかどうか。伸ばした彼の手は届かなかった。
 この1点の挽回を図ってオランダも攻める。ポルトガルも攻め返して、まことに面白い展開。37分にオランダはロビン・ファンペルシーが右から左足でシュート。相手DFを2人外した後の決定的瞬間だったが、左アウトにかけたボールは左ポストの外へ――。ポルトガルもパウレタがDFを背に反転シュートし、ファンデルサールが足で止めた。
 その前半の終了間際にポルトガルに退場者が出た。コスチーニャがハンドでイエロー。これが2枚目だった。


イエロー、退場の連鎖

 拮抗した試合での退場者は連鎖反応を呼ぶ。フィーゴと競り合った際のエルボー(肘打ち)を取られて、オランダもブーラルズが2枚目のイエローとなる。スタンドからも腕は当たったように見えたが、フィーゴの倒れ方も“見事”だった。
 78分にはデコが2枚目、89分にはジオバンニ・ファンブロンクホルストも2枚目となって、とうとう試合終了の時には、ピッチ上は9人ずつになっていた。
 キックオフから2分後にイエローを提示したロシア人主審の名は、ワレンタイン・イワノフ。あの62年チリ大会のソ連の得点王と同じ名前だったが……。イエローを出された選手は、ポルトガルはマニシェ、コスチーニャ(2枚)、ペチ、フィーゴ、デコ(2枚)、リカルド、ヌノ・バレンチの7人。オランダはファンボメル、ブーラルズ(2枚)、ファンブロンクホルスト(2枚)、ウェスレイ・スナイダー、ラファエル・ファンデルファールトの5人だった。
 日本とクロアチアの悲痛だがフェアな戦いの場で、面白くてアンフェアなサッカーを味わうとは――これもまたワールドカップというところか――。


(週刊サッカーマガジン 2006年12月5日号)

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