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フランクフルト:ジダンとビエラとチュラン。老練フランスが若いスペインを退けブラジルとの対決へ

おめでとう浦和レッズ

 12月2日の関西勢総崩れは、私には残念でしたが、浦和レッズの優勝には心から「おめでとう」を申し上げたい。
 三菱重工神戸造船所のチームだった頃、東京に本籍を移し、日立本社(柏)、古河電工(千葉)とともに“御三家の雄”となったJSL(日本サッカーリーグ)時代、そしてJに加入し浦和をホームとしたレッズ――と、その長いクラブの歩みを眺めてきた者にとって、巨大なスタジアムを埋めたサポーターの前での優勝決定はまことに感無量でした。
 何よりよかったのは、プレーヤーの一人ひとりが力をつけ、上手になったことでした。クラブ関係のみなさんには、Jのレベルアップの最前線に立つスターチーム、ビッグクラブへの歩みを続けてほしいと願っています。
 ワールドカップの旅は、前号に続いてホテル・トリップでの決勝ラウンド1回戦、スペイン対フランスの回想です。
 スタジアムまで出向いても結局、取材用のチケットが取れないことになり、それならばと6月27日の2試合はホテルのスナックでテレビを見る仕儀となった。
 このことはすでにお話したが、鉄道旅行のない一日は、体の疲れも取れて、翌28日は頭の働きもよくなっていた。テレビ観戦のメモはいつも読みにくくて、我ながら嫌になるほどの乱筆だが、この日は“解読”も速いから不思議なもの。
 それによると前半は互角で、スペインが仕掛け、フランスがそれを受け止め、カウンターに出るという形勢。16分に右サイドのフランク・リベリーが突進からクロス、スペインが跳ね返したボールをジネディーヌ・ジダンがシュート。それをDFがスライディングでブロックという場面があったが、そのときのジダンの走り上がる距離の長さと、ゴブのボールをダイレクトでシュートしたところに、この試合への彼の気迫が感じられた。
 27分にスペインが先制した。右CKの低いボールを防がれた後、キッカーのマリアノ・ペルニアは、今度はファーへボールを入れた。もみ合って落下したボールをパブロが取ろうとしたとき、リリアン・チュランの反則でPK。スローの映像では、チュランの両足がパブロのそれぞれの足に後方から当たったようだった。
 ダビド・ビジャの右足でのPKはグラウンダーで、左ポストぎりぎり。GKファビアン・バルテズはコースを読んだが、このクラスの選手がポストいっぱいへ蹴るシュートは防ぎようがない。


俊足リベリーとオフサイドのアンリ

 前半をリードのまま終われば…というスペインファンの願いは41分のフランク・リベリーのゴールで消えた。
 このしばらく前から、スペイン側は中盤でボールを奪い返されることが増えていた。ミッドフィールドでのボール奪取となれば、クロード・マケレレはその専門家。彼がボールを取ったところから、同点ゴールへの過程が始まった。
(1)マケレレが右のリベリーへ。このとき、スペインのディフェンスラインの裏にティエリ・アンリがいた。オフサイドの位置だった。
(2)リベリーは中央へ上がったパトリック・ビエラへ。ビエラはアンリへは出さず(素振りは見せたかどうか?)、ディフェンスラインの裏へ流し込む。
(3)外から内へ。裏へ走り込んだリベリーは、飛び出してくるGKイケル・カシジャスを右足で左へかわし、
(4)左足のインサイドキックでゴールへ送り込んだ。
 同じ27日の6時間前に行なわれたブラジル対ガーナで、ブラジルがオフサイドポジションのアドリアーノをおとりにしたように(前号参照)、このゴールもまた、オフサイドの位置にいたアンリが重要なポイントだった。
 ビエラからパスが出る前に、アンリをより確実にオフサイドトラップにかけようと、右サイドバックのペルニアが前へ上がった。このため、ディフェンスラインの裏を右から左へ駆け抜けたリベリーに対応できるDFはいなかった。
 後半は同点のまま、長い時間が過ぎた。70年代生まれがほとんどの“年寄り”フランスの動きが、不思議なことに80年代生まれ8人の若いスペインに勝って、スペイン側に反則が増える。
 83分、左サイドからのFKをジダンが蹴った。シャビ・アロンソがヘディングしたが、速いカーブボールはクリアにならず、ファーポストへ。そこにビエラがいた。多彩なボールを蹴るジダンとファーポストへ詰めたビエラ。98年大会優勝メンバーの合作ゴールだった。
 リードされたスペインは、火がついたように意欲的に攻めたが、こうなると若さは老獪に敵わない。ロスタイムのカウンター攻撃で、ジダンが左から中へドリブル、巧みなフェイクでカルロス・プジョルをかわして、右足で深い角度のシュート、彼の十八番の一つで3点目を奪った。ジダンは引退を1試合延ばしただけでなく、対ブラジル戦も「ひょっとすると」と思わせるキレのあるプレーだった。
 28日付のスペインのナシオナル紙の見出しは「La impotencia de siempre」(いつもながらの無力)だった。日本のメディアが好んで使うスペイン代表の形容“無敵艦隊”は、今回もまた歴史と同じく“無敵”ではなかった。


(週刊サッカーマガジン 2006年12月26日号)

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