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【番外編】一瞬をつかむインテルイレブンの感覚と力強いプレーがバルサの精密を崩した

ポストをかすめたFK

 洗練の極みバルセロナ(スペイン)と土の香りのするインテルナシオナル(ブラジル)との対戦はインテルが勝ち、「FIFAクラブワールドカップ」は昨季に続きブラジルのチームが優勝した。本来の連載、ワールドカップの旅は準々決勝に入っていて、先を急いでいるが、クラブ世界一を見逃すわけにもいくまい。と、番外編をお届けすることに――。
 82分、インテルナシオナルの16番アドリアーノのシュートが、バルサのGKビクトル・バルデスの手に当たりながら、その頭上を抜いてゴールに飛び込んだ。
 両者が秘術を尽くした攻防の末のゴールは、バルサに重くのしかかった。
 それからタイムアップまで、デコのシュートは防がれ、ロナウジーニョの得意の位置からのFKは左ポストをわずかに外れた。エリア内に走りこむアンドレス・イニエスタの前へ送ったロナウジーニョのパスも、落下点が少しだけGKクレメール側にずれた。1−0。


守りとカウンターの成功

 ブラジルのリオグランデドスル州ポルトアレグレからやってきたインテルナシオナルは、この地域の気風そのままに「骨太」で激しいプレーをするのに躊躇しない。もちろんブラジル育ちの高いボールテクニックと、速い身のこなしを備えてのことである。そう、ロナウジーニョもこの地域の生まれ……。
 監督アベウ・ブラガは「激しく堅く守ること。特にロナウジーニョにはスペースを与えないこと」を強調した。エリア近くの厚い守りを崩すために、相手は人数をかける。「そのボールを奪えば、こちらサイドに5〜6人のバルサの選手が来ているから、われわれにはスペースができる」と狙っていた。


自陣の深い位置からの連敗

 そのチャンスは少し違った形でやってきた。80分の右CKを防がれた後、バルサの方にミスが出た。
 インテルのGKクレメールのロングボールを胸で止めたバルサの左サイド、ジオバンニ・ファンブロンクホルストが前方へ送った。しかし、有効なパスとならず、インテルのセアラが余裕を持って拾った。それをロナウジーニョが追い詰めようとしたが、距離が遠く、セアラは内側へターンし、左足でまっすぐ前方へライナーを蹴った。
 この、何でもないような場面が、実は“世界一”を分けるゴールの始まりだった。ロナウジーニョが、頭上を通ってセアラに渡ったボールを、取れない間合いなのに懸命に追い込むのを、記者席から眺めていたのだが……。
 この後の手順は、
(1)セアラの蹴ったボールをハーフウェーラインの手前12〜13mのところで、ルイス・アドリアーノがヘディングした。
(2)ボールは高く上がり、中央のセンターマーク近くへ。それを前方から戻った16番のアドリアーノがヘッドした。今度は下へ、前方へ落とした。
(3)右に開いていた小柄なイアルレイが素早く反応して内側へ走り込み、センターサークルのすぐ外でリバウンドボールをトラップした。
(4)マークしていたカルラス・プジョルが外側背後から詰めた。
(5)ボールを争った両者の体が接触して、プジョルは前のめりになり、
(6)イアルレイがボールをキープしたとき、間合いは大きく開いてしまう。
(7)有利な形でドリブルする彼の横へ、アドリアーノが走り上がり並びかける。
(8)プジョルのカバーに行っていたジュリアーノ・ベレッチが新局面に対応しようと動いたとき、
(9)イアルレイからの短く強いパスがアドリアーノへ。
(10)ベレッチは足を伸ばしスライディングしたがボールに届かず、
(11)フリーのアドリアーノは走り込んで、右足でシュート。ゴールエリア外まで飛び出したGKビクトル・バルデスは手には当てたが、防ぐことはできなかった。
 この唯一のゴールのポイントは、ハーフウェーラインを越えてヘディングしパスを受けたイアルレイが、プジョルに絡まれながら弾き飛ばすようにしてキープしたところ。そして走り上がってきたアドリアーノへ決定的なパスを送ったことだろう。170cmと小柄だが、姿勢がよく、しっかりとした体の彼を見れば、夏のドイツで感じた体格の劣勢について、あらためて考えることになる。
 そして、相手のミスパスを奪い、やや余裕のある体勢から一気に速い縦パスを選択したDFと、それを二つのヘディングでつないだ仲間に感嘆のほかはない。ヘディングパスというやや不安定なプレーを、それも一本は高く上げ、一本は下へ落とすという変化の妙があった。何手先を読んだというより、瞬間のひらめきだったのかもしれないが、彼らの意図が一つになったところに力強い走り込みが加わって、バルサの精密を崩すことになったのだろう。バルサ側にコンディションの問題があったのかもしれないが――。
 それにしても、前を向いてボールを持ち、スペースさえあれば……という彼らの自信、それを基に互いのチームが戦略を考える面白さは、その基盤の薄い私たちから見れば、まことにうらやましい。


(週刊サッカーマガジン 2007年1月9日号)

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