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PKは低く蹴れ! ユース日韓戦、日本の敗因をつく


語る人 川本泰三(*L)
聞き手 大谷四郎(*L) 賀川浩


――最近の話のユースですが……。

川本 いや君、あの韓国との試合はよかったな。あれは大人のチームもちょっと見ならわないかんな。大橋監督の采配も見事なもんや。

――あの試合に限らず、前のインド戦、その前のマレーシア戦も良かったな。ひと試合のなかで調子の波はあったけれど……。

川本 ジュニアやから中盤あたりのソツはかなりあるが、ああいう大きなサッカーをするのはええこっちゃ。

――選手の特色が、それぞれ出とったね。

川本 それなんや。いかに選手の特色をつなげていくかがチームプレーやからね。ただし、結果を言うのやないが、ペナルティ合戦は技術的内容的に日本の負けやな。結果でも負けたが、内容でも負けとった。

――キーパーも気分的に負けたと思うが。

川本 まあ、悪質な焦らしはあったがね。だがペナルティに関する限りは――もちろんキーパーとの勝負だけれども――あくまで主導権はキッカーにあるんや。だからペナルティだけはキーパーの動きを考えたりしてはいかん。キーパーはヤマを賭けないと絶対取れんけど、キッカーの方はそれを予想して逆のヤマを張るなんてことを絶対してはいかん。というのは絶対に入るポイントがあるのやから。

――韓国のはじめの2本なんか左のスミの同じところへビューときよったな。

川本 とにかくゴールネットを支えている後ろの鉄棒があるだろう、あれを狙ったら問題ないのや。ただ日本は何が下手やというたら、蹴るボールが高いことや。一発目はまた別の問題もあるが、二発目も高かった。入ったけどね。

――韓国は低い。こいつは負けたとボクも思いましたね。

川本 大体に、キックは思ったとこよりも高く飛ぶものなんや。だから普段からどうしたら低い球を楽に力いっぱい蹴れるかを練習しとかな、あかんちゅうことや。全部合わせたら韓国の球は低かった。あのペナルティは負けや。高さに問題ありだ。一発目は、恐らくどこへどういう球を蹴ろうという考えはなかったな。まあ、カッとなって蹴ったのやないかな。

――まだ決めかねるうちに、蹴ってしもうたという感じですな。

川本 最後のとられたキックね。あんなにびびっとたらあかんわ。びびらずにあの高さでぴしゃっと蹴ってたら、キーパーがヤマかけても入っとるよ。あんなゆるいボールじゃ……コントロールに汲々としとったな。

――確かに低く蹴らんといかんが、低く蹴るのはむずかしいな。

川本 うん、まあね、ゴロは要するに蹴り方が違うんだ。ボールの中心線を打つわけや。横の中心線ね、その下を打てば必ず上がる。中心線を上から叩かなあかんのや。いうなればゴルフのアイアン・ショットなんだ。球に当たって、それから地面に刺さるんだよ。足の振りが、弧の最低点に達する手前で球に当たって、そのあと地面の中で最低点に達するわけや。その気持やが、足首を強くせないかん。ロング・シュートやったらそうもいかんが、ミドル・シュート、20メートルぐらいまでだったらゴロを蹴る気で蹴ってええやろう。

◆ ◆ ◆

――川本さんの経験では、蹴る方向はいつ決めましたか?

川本 それははじめから決まっとった。ゴールキーパーの左のネットの横の部分や。ただ助走に入るのに、どっちの足で蹴るか分からん格好でオレは立ったな。真ん中でボサーッと立ってね、蹴るときにひょっと体を左へずらせて、右足のサイドキックで蹴っとった。
  まあ、結論としてね、みんなペナルティの練習はしとるやろう。方向は恐らく考えているかもしれんが、高さをもっと厳しく考えないかんな。

――早稲田では川本さんがペナルティをみんな蹴ったのですか。

川本 ほとんどボクが蹴りましたな。そのなかで2本失敗した。東西の学生一位対抗で神戸商大とやったことがある。甲子園ですよ。ペナルティエリアの縦のラインとゴールラインの合うあたり、エリアにちょっと入ったぐらいのとこで神戸商大が反則したんや。今やったら外へ出すか間接の程度や。それがペナルティになったが、実は積極的に蹴る意思がなかったんや。それで何となくポーンと蹴ったらキーパーの真上のバーを叩いて入らなんだ。
 
 もう1本はね、いつだったか…リーグ戦で東京農大との試合やった。農大に物凄く頑張るセンターハーフがいてね、彼がタックルしてこけたときボールが転がってきて、さわる気がないけど手に当たってしもたんや。それもどうも蹴る気が起こらんのや。
 しかし蹴らんといかんからな。点差もすでに相当開いとる。どうしよう? と思ったが、これもまだ若気の至りや。ゴールキーパー目がけてスポッと真直ぐ蹴ったんだ。ストライクや。するとどうも観ていた新聞記者連中には分かったらしいんだ。朝日の山田午郎さん(注=すでに故人となられたがわが国サッカー記者の草分け)がアサヒスポーツでとりあげたんや。どんな取り上げ方をしたと思う? 曰く「武士の情けである」ハッハッハ。

――ワッハッハッ。

川本 古きよき時代や。

――ところで、あの韓国のPK合戦を見ててね、ちょっと残酷ですな。

川本 そんなことゆうとったら一対一の格闘技はどないすんねん。あんな残酷やなんてそりゃ過保護や。もう19歳やないか。

◆ ◆ ◆

――時間が15分もかかって案外長いしな。もっともスタンドやテレビを観ていた人には面白かったという人もいるけどな。スリルというか、一種の賭けというか、選手には悪いが、そういう意味の面白さはあるにしてもや。

川本 その“面白い”でちょっと最近ひっかかったことがあるんだ。いや、リーグの東洋対ヤンマー戦のことや。あの試合なかなか面白い結末がついたよ。だがね、試合のあとのインタビューで鬼武監督(ヤンマー)が「お客さんもこれだったら喜んでもらえたでしょう」てなことを言っとるわけや。もってのほかだよ、プロ野球じゃあるまいしな。

――なるほど、そのへんの見さかいがどうもついとらんような気がするな。同じようなことがほかにもある。

川本 オレはテレビで聞いとった。思わず「アホなこというな」……と言うたけどな、テレビに向かって。ハッハッハ……。聞き流してもいいようなもんの、本当は聞き逃せんことなんだよ。そのへんちゃんとしておいてほしいな。

――そんな話が出たから、この際ついでに……。ごく最近サッカー関係者じゃない人から言われたことでね。

川本 どんなことや。聞き手が逆になってしもたが……。

――実はタバコは少しは喫っているにしても、ユニフォーム姿やトレーニング・パンツなどはいては、やめてほしいなということ。選手はもちろん、リーグの選手にはおらんかもしれんが、コーチといえども、そんな姿では喫ってはいかんな。選手はもし一流になる気ならばもちろんのことだ。たとえアマチュアでもね。そんな姿で喫っているのを見た人が“協会で牛肉やバターを食わせる補助を考えろなんていうのはおかしいよ”というのだが、確かにそうや。

川本 まったく、その人のいう通りや。みんなクラマーの弟子やがな。


(『イレブン』1971年7月号)


<試合記録>

第13回アジアユース大会準決勝
日本ユース代表 0−0(PK戦5−6) 韓国ユース代表
1971年5月3日 東京・国立競技場

GK 瀬田(日立)      GK 柳永和
FB 木村(新日鉄)     FB 姜炳賛
   麻田(中大)          姜鉄
   小滝(東洋)          黄在万
   北村(ヤンマー)       金錫坤
HB 奥寺(古河)      HB 安京洛
   江野口(新日鉄)       黄南善
   古田(早大)          車範根
FW 高田(三菱)      FW 趙漢興
   永井(古河)          高在旭
   高見(法大)          金鎮国
   →碓井(藤枝東高)     

PK戦

@ 麻田  X   趙漢興 ○
A 北村  ○  金鎮国 ○ 
B 江野口 ○  車範根 ○
C 小滝  ○  高在旭 X
D 奥寺  ○  姜鉄  ○
…………………………………………
E 木村  ○  姜炳賛 ○
F 高田  X   黄在万 ○

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