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五輪アイスホッケーに学ぶ サッカーのフィルターを通して見た共通点


語る人 川本泰三
聞き手 大谷四郎 賀川浩


川本 オリンピックのアイスホッケーのテレビを見たのだが面白かったね。考え方も、またプレーに現われている傾向も、サッカーによく似ているね。アイスホッケーの場合、昔からカナダという大勢力があって、そこは優秀な個人技能を強く押出したアイスホッケーだ。それに対してヨーロッパ、ことに強いソ連、チェコなどのアイスホッケーは一言でいえば組織力である。サッカーでの、南米とヨーロッパという感じだ。このように、我々は他のスポーツを見るにしても、必ずサッカーというフィルターを通して見るのだが、日本が外国に対する場合、サッカーよりもアイスホッケーの立場の方がずっと厳しく苦しいだろうな。サッカーはアイスホッケーほどに接触プレーはないからな。アイスホッケーの場合は、ときに格闘技に近くなる。それを考えると、サッカーは楽だから、もう少しうまくならねばならないといえそうだね。

大谷 アイスホッケーはグラウンドがせまい、そこへリーチが長い、どうしても要求が厳しくなる。スペース的にも時間的にものんびりしておれない。そこで優劣をきそうとなるとどうしても機敏なことを考えざるを得なくなる。だから、ある面ではサッカーより先に進んでいる。

川本 オリンピックのアイスホッケーを見ていて、サッカーと同じ感じを持つものに組織プレーの内容というのがある。今度のアイスホッケーでよく分かった。得点をとるとき、まあ普通の場合アシストとゲットする選手がおる。その両者の関係なのだが、どちらかが必ず自分の個人技をフルに動かして無理をしている。あるときにはアシストの者がとことん突っ込んでフリーのゲッターに渡してやるとか、逆にアシストからいいパスはもらったが、それからゲッターが二、三人をがんばって抜いてシュートしているとか、大方の得点が生まれる場合には、どこかで誰かが非常な無理と苦労をするものなのだ。

 だから組織プレーといっても、個人の働きは決して均等ではないということがわかる。これを見ないといけない。みんなが同じプレーをしとってはいかんということだ。誰かに非常に大きな比重がかかるもので、それに耐えられる個人技を持っているのがヨーロッパ風の組織の内容なのだよ。

賀川 サッカーは11人のチームだからといってみんな1/11役割を果しておればよい、1/11の個人技でよいというものじゃない。ときには一人が二人分も三人分もの仕事をしなければならない。それが全体の中で個人技がものをいうチーム・プレーということでしょう。

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川本 アイスホッケーを見て、サッカーもまたこうあるべきであるというのが分かるのだが、ボクも若いころにアイスホッケーのスティック・ワークを研究してフェイントに役立ったことがある。冬季オリンピックを見ていて、勝ったからいうわけじゃないが、日本人がなんとかできるのはジャンプだろうね。あれは体重はさほど必要ないだろう。バネは必要だがね。その他のアイスホッケーにしろ、スピードスケート、スキーの滑降もみんな体重がものをいうよ。

賀川 日本がBグループながら相当やれるとすれば、あれほど消耗戦じゃないサッカーはもうちょっとやれないといかんですな。

川本 サッカーの場合は、アイスホッケーよりもっとフリーでボールをキープできるはずなのだ。ボクがやかましくボール・コントロールを強調するのもそこなのだ。

賀川 日本のアイスホッケーでも、若林とか岩本、引木という個人的にパックを持てる選手が出たから実際に組織力ということを言えるのじゃないだろうか。

川本 昔スウェーデンから来たユルゴルデンにヨハンソンというのがいたね。

大谷 彼はサッカーより以上にアイスホッケーで名を挙げた。世界選手権の最優秀選手に選ばれたが、最近はゴルフでスウェーデンのナンバーワンだそうです。

川本 アイスホッケーのスティック・ワークに似たようなことをしていたな。一度斜め後へ戻って次にぐっと斜め前へ出てゆく動き、一瞬バックスが門になるのだ。その間を抜いてゆくわけだ。

賀川 中盤を斜めによぎってゆくドリブルもアイスホッケーに似ていたね。またあの斜め後方への感覚はサッカーでも身につけてほしい。

川本 アイスホッケーからヒントを得たフェイントがあるのだ。こちらはセンターのフォワードでストッパーを完全に背にして味方の方を向きバックスから球をもらうときだ。球が少し右斜めから来るとする。(味方の方を向いたCFの右斜め、つまり味方バックスの左サイドから斜めのパスが来る場合など)その球を反対の左斜めへ流して抜く格好をする。左足をそちらへ踏み出すわけだ。(ストッパーの左横へ向かって)そうしておいてその足を軸に逆に右へ回転しながら右足のアウトサイドで、すうっと右側へボールを持って行って抜くのだ。なぜそれがよいかというと、その瞬間に相手とぐっと離れるのでしっかり向き直れるわけだ。ゴール前ではそのままシュートもできる。マークされていると何かを利用して敵から離れたい。アイスホッケーでは相手を背にしてスティックの裏でパックを扱いながら逆にくるりと回るだろう、あれを見て考えたわけだ。

賀川 グラウンドホッケーではスティックの裏を使えないから無理だな。

川本 以前に少しふれたかもしれないが、フェイントとは、体の向きを変えることなのだよ。まず右へ向かってゆく、そして左へ向きを変える。ごく単純なのだよ。とにかく一度右へ向かっていけば相手は実際は逆をねらっていると知っていても一応そちらへ行かざるを得ないのだよ。スタンレー・マシューズはその一つだけのフェイントであの有名なウイング・プレーをつくったといえる。これに反して、あの体を左右に動かしたり、足をチャカチャカ踏みかえたりするのは最も労多くして功少なきフェイントだね。もう一つは、ボールを持っているものが何かの動作で相手の足のかかとを地面につけさせることなのだ。以前にも話した高山英華のように、ズーと走ってきてパッと止まる。相手もパッと止まる。瞬間ワッと出る。相手がかかとをつけた瞬間なのだ。一度かかとをつけるとすぐには次の動作には移れない。要するに相手が動けない状態のときに一足先にこちらから動く。これが最もシンプルで効果の高いフェイントなんだ。時間差とか“ズレ”ともいえる。

大谷 ところでオリンピックにやってきたスキーの選手などは盛んにサッカーをしてトレーニングしているが。

川本 サッカーの選手は何か他のことをしてるかな。オフシーズンに外国では他のスポーツをやっている。日本ではやはり球をもっと転がす必要があると思うけれども、サッカーというフィルターを通して見れば、他の競技にも役立つものがあるだろうと思う。


(『イレブン』1972年4月号)


*関連リンク

若林修(Wikipedia)
引木孝夫(Wikipedia)
Sven Tumba Johansson(Wikipedia)
Sir' Stanley Mathews(YouTube)

・岩本宏二。札幌オリンピックアイスホッケー代表選手。ポジションはFW

・高山英華
 第9回1930年極東選手権大会日本代表FW(東大在学中)。建築家、東京大学工学部教授。後、東京オリンピックのサッカー会場となった駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場等の設計に携わる。

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