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日本のサッカーを強くするカギ 今の選手は練習量が足りなすぎる

話の弾丸シュート第1回
聞く人 小山敏昭(共同通信・大阪支社運動部)


メキシコ・オリンピックの快挙以来沈滞ムードをつづける日本サッカー界。先の日韓戦ではなんとか勝ったものの。8月に行なわれたアジア大会ではベスト8にすら残れず、マレーシアをはじめイラン、イラクにすら追い抜かれそうだ。ユースにしても決め手がなく、念願のワールド・カップへの道はまだまだ遠いようだ。だがサッカーファンなら誰もが早く世界の桧舞台へ――の希望を持つのが当り前だ。

そこでなぜ日本代表がこう弱くなってしまったのか、どうすれば強くなれるのか。日本サッカー界の貢献者でもあり、サッカーのご意見番でもある川本泰三氏に言いたい放題伺ってみた。


ドリブルのない日本代表

――今の日本のサッカー界は、沈滞と言われていますが。

川本 本当に沈滞としか言いようがありませんね。まったくどうしようもない。

――メキシコで銅メダルを取った日本がどうしてこうまで低迷してしまったんでしょうか。

川本 そうですね。それにはいくつかの理由があると思うんです。まずそれをひとつずつ追求してゆきましょうか。

――まずどんなことが挙げられますか。

川本 第一に選手自身の進歩が非常に遅かったということですね。サッカーは水泳などのように急にうまくなるものではない。やっぱりステップを踏んでいく必要があるんです。そんなスポーツでもある時期にある選手が突如見違えるようにうまくなった例もある。一夜明けたら急にうまくなっていたなんてことがです。
 ところがこれは突然力がついたわけでもなんでもない。それには本人が人知れず積み重ねた蓄積があってのことだ。ひとつひとつのステップを積み重ねたうえのことです。今の選手には、この急にうまくなったという選手がいない。言ってみればステップすら満足に踏んでいないのだから当り前かもしれない。

――ステップというのは具体的にいうとどんなことでしょうか。

川本 まず練習の量ですよ。今の日本の選手たちは練習の量が足りないんです。試合には喜んで臨むくせに、練習となるとそっぽを向く。とにかく少しでも多くグラウンドにいることですよ。そしてそこでドリブルなどの練習をすべきなんです。うちには息子がいるんですが(早大サッカー部に在籍中)、私は夜中一時間でもいい、とにかく練習を多くやれと言ってあるんです。

――確かに日本代表を含め各チームの練習量が少ないと言えそうですね。

川本 本当ですよ、まったく。そして次に挙げられるのが選手自身の工夫がないということです。コーチに教えられると、海外遠征で見てきたことをただ鵜呑みにしてしまっている。選手として自から努力して自分のものにしようとしない。自分に合ったプレーはどうしたらいいかなどと工夫することを怠っているね。

――そう言われますと日本代表の欧州遠征をはじめ、各チームが近年数多くの海外遠征に出かけているのに全然効果が表われないのはそのへんに理由があるんですか。

川本 そうですよ。私の友人でベルリン・オリンピックの選手だった人がいるんですが、彼は海外遠征なんてやめて、日本でじっくりやれ、という強硬な意見すら持っているんですよ。だってあれだけ実際に海外に出ながらいっこうにうまくなっていない。選手自身が日頃工夫することを怠っているから、よいものを吸収する力がないんでしょうね。

――そうですね、確かに特色を持った選手が少なくなったのも。

川本 今の日本代表を見てごらんなさい。まともにわかるのは釜本ぐらい。あとは中盤でごちゃごちゃして、特長のない選手ばかりだから誰が誰だかわからない。みんな同じことをやっていてはいけませんよ。コーチにも責任はあるわけですが、選手一人一人がやはり自分のプレーに創意工夫をしないことにはコーチがいいことをいっても意味がない。

――これだけ伺っただけでも苦悩する日本サッカー界の根は深いという感じですが、まだほかにもあるわけですか。

川本 今言ったことは日本サッカー界の泣きどころなんですが、今度はゲームとしての欠陥を考えてみましょう。一番先に挙げられるのが、日本のサッカーにはドリブルがない、ということですね。アジア大会で日本がイスラエルと対戦したときの試合をテレビで見られた方もいると思いますが、あの試合、3−0で日本が負けたのはまさに日本のサッカーにはドリブルがないという典型的なゲームでしたね。言ってみれば負けるべくして負けたと言えるでしょう。

――昔は杉山、今は若い永井、高田とドリブルならまずまずという選手がいると思うのですが。

川本 そう確かにうまい。だけどそれはみんな相手がいないときボールを前へ突っついてゆくドリブルなんだ。だがサッカーには相手がいる。敵を前にしたときのボールの扱い方のことを指すんですよ。


印象に残る長島選手の言葉

――そう言われると若い人はまだまだという感じですね。

川本 サッカーの本質はボールをいかに扱うか――、すなわちボールの持ち方なんです。これを一生懸命勉強しろと言いたいんです。

――ボールを持つというのはボールリフティングなどを指すのですか。

川本 いやそうじゃない、敵と向い合ったときの、つまり1対1のときのボールの持ち方なんです。それにはトラップというボールを止めるテクニックももちろん含まれるでしょうが。試合は90分間もあるわけですが、一人選手がボールに触わるのはトータルしてもせいぜい数分ぐらい。そのときにいかにボールを持てるかの技術も指すわけですが、サッカーを含めスポーツは技術ですよ。さきにプロ野球で現役を引退した長島選手が面白いことを言っていましたよ。自分は燃える男だとか、ガッツの男だとか言われていたが、自分を本当に支えてくれたのは技術だと思う、とね。

――いい言葉ですね。

川本 長島という人は自分の燃えるものを完全に燃焼させた男ですからね。

――ところでサッカーは走ることが第一だと言われるんですが、この点、日本は。

川本 そう、よく新聞に精力的によく走り回ったとか、走り通したとか出てきますね。だけど今のサッカーには90分間走るスタミナは必要だが、肝心なのはここというときのスピード、スタミナがいる。ここというときに走れればいいんですよ。無駄なエネルギーを使いすぎる必要はない。もっとも走ってもボールを持つか持たないかも問題になるんだが…。

――選手にはしなくてはならないことがたくさんありますね。

川本 そう選手自身がね。しかしコーチにもすることがあるんだ。選手の素質を見い出してやったりね。私はFIFAのクラマー・コーチ(現・アメリカ合衆国のナショナルチーム監督)と知り合いなんだが、彼は優秀な指導者がいれば100パーセント選手はうまくなると言ったんです。だけど私はいや違う、と反論した。確かにコーチはある程度まで選手をうまくすることはできるが、残りは選手自身の問題ですよ。だから選手にも何パーセントかの比重があるはずだと。

――というとデットマール・クラマーさんと意見が違ったわけですか。

川本 そう。でもよく話を聞いてみるとクラマーさんのいう話には選手がすべて自覚していることが、前提にあってのことだったのです。だから日本の場合は選手50、コーチ50だと笑った。

――わずかな時間でこんなにウミが出てきたわけですが、これらのことを実現させていけば日本は強くなりますか。

川本 そんなに急には無理だが、徐々に力をつけてゆくのは間違いないよ。今まで通りのことを繰り返していたら、それこそずっと日本がワールドカップへの出場権なんか得られるはずがないよ。とにかく誰もが日本のサッカーを強くしたいと望んでいるんだからね。


(『イレブン』1975年1月号「話の弾丸シュート」)

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