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強くなるためにはドリブルをマスターせよ 1日最低2時間の練習は必要だ

話の弾丸シュート第2回
聞く人 小山敏昭(共同通信・大阪支社運動部)


日本のサッカーにはドリブルがない。ドリブルこそサッカーの第一歩であると強調される川本泰三さん。世界の桧舞台へ出るためにはもう一度基本に戻って、新たな目標へ出発しなければならない。ではその基本となるドリブルとはどんなものであろうか、われわれが知るドリブルと違うのか、そのあたりを今月は伺ってみた。


ドリブルの必要性

――サッカーにはドリブルはつきものですね。

川本 そう。サッカーの基本技だからね。サッカーが球を扱う競技である以上、一番早くマスターしなければならないものなんだ。

――一番先にですか。

川本 うん。もう基本も基本のプレーなんだから、一日最低二時間はかけて、ねちっこくやらなくちゃあいけない。今の若い連中はすぐに飽きてしまうが、一つのことを繰り返し繰り返しやって飽きないようになることが練習じゃないか。

――反復してやるわけですね。

川本 何度も繰り返し、自分のものにするまでね。ドリブルにはボールの持ち方なども関連してくる。ボールの扱い方がうまくなれば、当然周囲を見られるようになる。周囲を見られれば情況判断もできるようになるんだ。ところができない選手は全くボールを扱うことが精一杯で、周囲を見る余裕なんかできるわけがない。

――足許に気を取られているわけですから、周りは見えませんね。

川本 今の日本の選手たちの一番弱いところなんだ。今の日本を本当に強くしたいと思うならドリブルをたくさんやること以外にないよ。

――最近はドリブルと同じようなボールリフティングなどに、ボール扱いのうまい子供たちがたくさん出てきたようですが。

川本 ちょっと話は自分のことになるんだが、僕が通っていたのは大阪の市岡中学(現・高校)なんだが、そこは野球の強い学校でサッカーなんて虐げられたスポーツだった。だけど僕はそんな中で軟式の、あの柔かい小さなゴムまりでリフティングの練習をしていたんだ。早大に進んでも一人で転がしていた。
リフティングがうまいことは確かにいいことなんだ。だけどこれが大切なんだ。サッカーには敵がいる。その敵を抜かなくてはならない。ある意味でサッカーは1対1の格闘競技と言える。相手との勝負なんだ。ところが今の日本の選手たちはそれを避けちゃっているんだ。これでは沈滞とか停滞と言われても仕方ないよ。

――そう言われますと、日本のサッカーには1対1で向かい合ったときのドリブルというのが少ないですね。

川本 まったくだよ。例えばゴールに向かって攻めようとする。相手もいるし、味方も周りにいる。そんな時に一人でドリブルで突進することが最上の方法なんだ。その間に他の選手がいいポジションがとれるもんね。だけどそれができないからパスをするんだ。日本の今の選手はドリブルをしようという意思すらない。練習してないんだから仕方ないんだろうね。すぐパスをしてしまう。それもややこしい、数多いパスをね。

―― 1対1で向かい合ったときその相手が抜けたら、こんなチャンスはないですものね。

川本 そう。敵を背中においてきてしまえばね。だからそうなるために選手たちは練習し、工夫するんだよ。

――工夫ですか。

川本 また僕の話になってしまうが、僕は足が遅かった。百メートルを14秒台だったと思う。だから先輩などに「鈍足」といわれていた。だけど僕は敵に足が遅く見られないようにしようと考えたんだ。ものがすれ違うときに相手がものすごく速く見えることがある。例えば電車がそうだよね。僕は“あっこれだ”と思ったんだ。相手バックスが出てくる出鼻を抜くんだ。相手がつっかかってきたときにこっちも動く。そうすれば相手は「速い」と感じるんだね。僕はそれを何度も何度も練習した。そうしたらいつの間にか誰も「遅い」なんて言わなくなったよ。

――面白いお話ですね。

川本 工夫することが大事なんだね。先月も言ったように選手自身の工夫がないとだめだよ。自から努力して自分に合ったプレーにするためにね。

――そのほかドリブルを使うと有効なことはありますか。

川本 戦況を有利にすることはもちろんだけど相手ペースの試合などでドリブルを使うことによってペースを変えることもできる。間をもたせることもできるしね。ドリブルは本当にサッカーの基本だから。
 ところで、ドリブルで相手を抜くときフェイントを使うね。そのフェイントという意味を知っているかい。

――単語の意味は相手をだますということですね。

川本 そう。相手に疑心暗鬼を与えること、相手がどうするんだろうと思わせることが、フェイントなんだよ。うまい選手はボールを持った瞬間にフェイントをかけている。それは別に体をくねくね動かしたり、足を巧みに使ったりすることだけではないんだね。ボールを持ったとき、相手に疑心暗鬼にさせることだ。右に行くのか、左に行くのか分からないと言うね。どういうプレーをするか分からない相手は先につっかけてくる。要するに、相手に仕掛けさせることがフェイントの本当の意味なのだよ。

――相手に仕掛けさせることですか。

川本 つっかけさせれば、こっちはもうそのプレーをかわせばいい。相手を抜くことができるわけだ。うまい選手がボールを持ったときにフェイントをかけているという意味はそうすれば分かるだろう。ボール扱いがうまければ、ボールなんか見ずに、相手のつっかかってくるのだけを見ていればいいわけだ。そういうことなんだ。

――なるほど。僕らは体を動かして相手をかわすことがサッカーのフェイントだと思っていました。

川本 1対1になったときに先に仕掛けた方が負け。だから逆に守るバックスにすれば、ボールを持っているFWの選手に先に仕掛けさせることが大切なんだね。


チームプレーの意味

――ところでよくドリブルばかりしている選手は個人プレーをしている選手だなんて言われることがあるんですが。

川本 そんなことはない。それは個人プレーというか、その逆のチームプレーという言葉の意味を取り違えているんじゃないですか。

――チームプレーですか。

川本 そう。チームプレーというのはね、定義するとすれば『チームという組織の中で個人が生きること』なんだよ。個人がいいもの、好きなこと、得意なことを出し合うことなんだ。西ドイツの代表チームをみてごらん。ベッケンバウアーにしろミュラーにしろ好きなことをやっている。自分の得意なことだけどチームとしてちゃんとまとまっているじゃないか。それがチームプレーなんだよ。ちょっとこのチームプレーのことになると話が長くなるのでこれはこの次に譲って、さっきの話だけど、ドリブルがもしうまい選手がいたらドリブルをさせればいいんだ。個人プレーだなんていうことはない。だってサッカーの基本は全てドリブルから始まっているんだからね…。

――本当にそういうわけですね。一歩でも日本を前進させるためにはまずドリブルを身につけることが大切なのが、よく分かりました。


(『イレブン』1975年2月号「話の弾丸シュート」)

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