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日本チームに欲しい発想の転換 

話の弾丸シュート第6回
聞く人 小山敏昭(共同通信・大阪支社運動部)


 4月6日、全国各地で第11回日本リーグが開幕した。今年はヤンマー、三菱、日立の三強に新鋭永大、古河、そして名門復活を目指す東洋など、どこが優勝するか全く予断を許さない“混戦ムード”だ。だが、チームの優勝以上に気になるのがオリンピックの予選に出場する日本代表の母体、日本リーグ勢の動向だ。
 今月は開幕したリーグの話と日本がなぜ強くならないかなどを聞いてみた。


通らない日本のパス

――秋にオリンピックのアジア予選を控えて、日本リーグが始まりましたね。

川本 そうだね。だけど開幕の日立−三菱戦をテレビで観戦したけど、つまらなかったね。両方のチームが同じことをやっているんだ。
 彼等の練習はもっぱら走ることばかりやってんのと違うかな。なぜなら、必ずといっていいほどパスが3本目で詰まってしまっている。それがまるでハンで押したようにね。外国のいいチームは3本目のパスが次への展開につながっている。それがあるからパスの本当の意味があるんで、日本のチームにはそれがない。

――日本の選手のパスは相手のディフェンスがつっかける前に出す者が多いようですが、それと関係あるんですか。

川本 そう、それなんだ。実はパスの原則というのはボールを出す人は苦労して、苦労して出すんだ。そのかわりに受ける方の人はフリーで受けることなんだよ。ところが日本リーグのを見ていると出す方はフリーで、受ける方がヒイヒイ言って受けている。これでは3本目のパスがつまるのも当り前だよね。

――なるほどそうですね。

川本 だから、日本のパスは、いつも詰まってしまっているんだよ。

――結局ボールを持っている人の技術がないからですね。

川本 ボールを持つ人、受ける人の技術の深さが日本にはないんだね、これは重要なことなんだ。日本のサッカーというのは、ただ単に外国の高度な技術を持っているチームの真似をしようとしているんだ。

――三菱にしても西ドイツのメンヘングランドバッハの真似をしようとしているようですね。

川本 そう、二宮寛監督が一生懸命にメンヘングランドバッハの真似をしようとしている。ところが三菱の選手は技術がまだ低いからつまり、パスに詰まってしまっているんだ。

――それがまさに日本代表にも通じるんですね。

川本 技術が低いということがね、日本人は外国のチームを見て、姿や格好が同じように見えるんだね。ところが、実はかっこうは似ていても技術が数段違うんだ。
 実際に真似なんか出来るわけがないんだよ。それを技術の低い日本人がやろうというのだから無理があるんだ。日本のサッカーは技術はまだまだ低い。それで高度な技術を持つ外国の真似をしているから無理なんだ。

――日本の技術のなさというのはよくわかります。それを高めなければ、日本のサッカーは絶対に強くならないのも当然というわけですね。

川本 そう、技術を高めるためにはとにかく練習、練習あるのみだよ。


サッカーの中身の変化

川本 ところで、ちょっとここで言っておきたいことがあるんだが。

――何でしょうか。

川本 日本のサッカーは中国の揚子江や黄河のようにどろっと流れている。日本のサッカーには「ため」「節(ふし)「崩(くずし)」「無理」がないんだ。日本のサッカーの中には変化というのが感じられないんだな。実際のゲームというのはそうじゃない。日本の川のようでなければならないんだ。

――日本の川のように急流があったり、滝があったりというふうにですね。

川本 そうだ。日本のサッカーには、例えば「ため」というのが欠けている。日立の野村が多少出来るぐらいかな……。
 だからその欠けている「ため」とか「節(ふし)」などをつくればいいんだが、首脳陣はつくろうとすらしていない。だから私は何度もいうように日本のサッカーにはもう発想の転換が絶対に必要なんだよ。日立の高橋監督は僕の後輩だし、サッカーをいろいろ十分に知っているんだが、どうしてあんなサッカーばかりやっているのが不思議だね。

――日立は3年前に優勝した当時とほとんど同じようなことをやってますね。

川本 優勝したときのリズムばかり追及しているんだね。ちょっと話は変わるんだけど、メキシコ・オリンピックのとき、とにかく釜本に点を取らせようとして、ほかの選手も一人一人が頑張っていた。そのときは球に多くの人が集まって数的に優位なサッカーというものを成功させていたんだ。
 ところが、それから早く脱皮しなければならない。発想の転換をしなければ、つぎの目標に向かってスタートすることは出来ないよ。
 日立にもそれと同じことが言えるんじゃないかな。

――そうですね。

川本 日本リーグは11年たって確かに技術は高くなってきている。だけどもう日本のサッカーはどうしようもなくなっているんだ。日本代表の長沼監督の苦労も分かるけど、彼は経験主義からもう出られないんだね。発想の転換が出来ないんだ。
 ひとつの仕事を長くやっていると型というものができる。それはその人の財産だし、かけが3のないものなんだ。ところがそれが逆に新しい事態に対処することが出来なくなってしまっているんだ。考え方を変えるということが出来なくなっているからね。

――ということは、先ほどもおっしゃったように、日本のサッカーは新しいものを求めて発想の転換をすることが大切なんですね。

川本 クラマーさんは日本人に合ったサッカーを早く作れ、と言っていた。これは当り前のことだし、これを早く作らねばならない。そのためには今のスタッフではもうだめだ。新しい人を起用しないとね。そして2、3年先のことを考えてチーム作りをしていかないとね、今の日本代表のように毎年、毎年選手を入れ替えたりしていたんではだめだよ。それに選手一人一人がもっともっと練習しないとね。

――最後に、日本リーグ勢に何か注文はありませんか?

川本 日本リーグ勢はファンの関心を集めるようなことをしないとだめだ。そのためにはゲームの内容、ゲーム自体の濃度のアップを図らねばいけない。それに外国人勢に支えられていてはだめだ。やはり純国産のチームが頑張ってもらわないといけないな。


(『イレブン』1975年6月号「話の弾丸シュート」)

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