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92年欧州選手権 ファンバステンの幻のゴール

 ファンバステンやライカールトをはじめ、188cm以上が3人、184cm以上が4人、180cmが1人、177cmが2人、175cmが1人のオランダの巨人たちに対して、CIS(旧ソ連)は、まずしっかりと守りを固め、時々カウンターに出るという守備作戦をとった。
 彼らのやり方は、サイドでノーマークとなっても必ずしも攻めるとは限らず、80年のベルギーを思わせる。オランダのDFが攻めに出て開いていると見れば、一気に中央部をドリブルと速いパスで攻め上がったから、シュートは決まらなくても、時にオランダのサポーターはヒヤリとしたはずだ。

 そんなCISを相手に、オランダの攻めは、最高のエンタテイメント。例によってフリットが右に、ロイが左に開いて、広いスペースをファンバステンが動き、彼の後のスペースへベルカンプが侵入する。ライカールトはピンチにはゴール前の大事なところにいて、相手ゴールのチャンスにも絡む。35分に見せた速攻などは、相手の攻めを右エリアでボールを奪い、左のロイを走らせ、そこから中へ。ファンバステンからライカールトへと一気にたたみかけ、ライカールトが倒されたFKをクーマンが蹴る。その球の鋭い速いこと。外れはしたが、こちらもウーンと思わず唸ってしまう。

 フリットが足を痛めて交代した後、圧巻は、ファンバステンのダイビングヘッド。右サイドのボウタースからDFラインの背後へ出たクロスを、飛び込んで文句なしのゴールと見たが、ラインズマンの旗が上がってオフサイドだった。ファンバステンにとっても会心の飛び出しとヘディングだったらしく、しばらくは不服そうだった。

 私も承服しかねるのだが、ともかく最もスペクタクルなゴール(得点ではないが)を見たことで満足することにしたのだった。メモの最後にある。「オランダ代表は、今、世界最高のショウだ」と。彼らがドイツと戦う18日が待ち遠しい。


(サッカーマガジン 「EURO92の旅8」)

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