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74年西ドイツW杯 守りを引き出す理想の攻撃

 特に驚いたのは、後半ウルグアイがカスティーヨの反則退場で10人になってからのオランダの攻撃だった。一人足りないウルグアイはどうしてもゴール前に引っ込んで、守りを厚くし、点を取られまいという形になってしまう。そのゴール前の密集を破るために、手を代え、品を代え攻め立てる。そしてバンバン強いシュートを浴びせる。

 ところが、ウルグアイのマズルケビッチは驚くほどの冷静さと、素早い動きでオランダのシュートを防ぐ。10分以上、こんな状態が続いて、シューター対ゴールキーパーの戦いは、キーパーの方にやや分があるように見えたとき、オランダは急にシュートのタイミングを遅らせ始めた。

 それまでシュートをしていたいわゆる「シュート・チャンス」にもシュートをせず、もう一度、味方へパスをするようにした。守備側の対応によってシュートのタイミングが遅れるのとは違って、攻撃側が意識的に遅らせるのは守る方にとって大変つらい。ゴールキーパーには、集中の持続が長引くだけにこたえる。そしてついに、ゴールエリア左角付近でボールを取ったレンセンブリンクにマズルケビッチが飛び出していって、中央のレップがキーパーのいないゴールへ蹴り込んだのだった。  

 相手がゴール前に引き込んでしまったのを引っぱり出して、分散させ、そして最後に誰かがノーマークでシュートするのは、サッカーの攻撃を志すものにとっての、ひとつの理想の極致でもある。
 それをワールドカップの高いレベルを相手にして、GKまでつりだしたところに、オランダのチームの確かさと、余裕を推量して、いささか唖然としたのだった。

 オランダ株はこの1勝で急上昇した。
 その後の1次リーグ、スウェーデン(0−0)ブルガリア(4−1)そして2次リーグでのアルゼンチン(4−0)東ドイツ(2−0)ブラジル(2−0)の撃破で、決勝に出る前に、すでにオランダはワールドチャンピオンになったかのような印象を多くの人に与えた。


(サッカーマガジン 1974年10月号)

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