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92年欧州選手権 フランス戦での幸運

 その重要なグループ1の最終戦、対フランスは6月17日にテレコにマルメで行なわれた。グループ1のもう1試合、スウェーデン対イングランドがストックホルム。マルメはデンマークの首都コペンハーゲンからフェリーで40分の距離。赤の地に白十字のデンマーク国旗とサポーターの大声援を受けたチームは奮い立った。

 ラインアップは少し変動があった。DFラインはそのままだったが、MFのビルフォルトに代わってラルセンが入った。ビルフォルトは愛娘リン(7歳)の容態(白血病)が悪化したため、仲間の勧めもあってコペンハーゲンの病院へ戻っていた。トップには、クリステンセンもまたベビー誕生のため帰国したので、フランクが起用された。彼は24歳、クリステンセンとともに、90年までプレンビーのストライカーで、いまはリンビーと(クリステンセンはシャルケ)分かれているが、ゴールを競った間柄だ。

 そしてビルフォルトに代わったラルセンが、8分に先制ゴールを奪うのだからサッカーは面白い。アンデルセンとポウルセンで作ったチャンス、ゴール正面にポカッとあいたスペースへ入ったのは、イェンセンでなくラルセンで、強シュートをずばりと決めた。

 60分にパパンのクリーンシュートで同点となったが、78分に2点目を決める。それもこのシーンの11分前、疲れたラウドルップに代わって登場したエルストラップが、右からポウルセンの入れたクロスをニアポストで決めたものだった。

 1次リーグを終わってみて、デンマークは得点2(フランス)、失点2(スウェーデン、フランス)。シュート数26(イングランド13、スウェーデン4、フランス9)、被シュート数50(イングランド23、スウェーデン11、フランス16)。GKのセーブ数20(イングランド10、スウェーデン4、フランス6)。

 シュートの数はだいたい相手の半分。つまり攻められてもGKのセーブ数にある通り、よく守っていることを表わしている。

 と同時に数字には見えないが、シュートの数は少なくても、彼らのカウンターは時に決定的なチャンス、ノーマーク、フリーシュートのチャンスを作り出すことは、各試合の経過で明らかになった。それは、一つには彼らの攻め上がりの速さと、ドリブル突破の効力だった。1対1の守りを突破され、相手がゴールに向かってくれば、当然、中央のDFもそれに向かっていく。そこでボールを振られると、オープンスペースが大きくなる。

 イングランドやフランスといった大国のチームが、相手中央部の守備の堅固さを避けて、いったん外へボールを散らしてから中へ入れてくるのとは違って、外から中へドリブルで入ってきてパスを出す。あるいは中から外へドリブルで相手を引き連れて走り、中へ返すというやり方は(昔からあるサッカーには違いないが)、いかにも意欲的で実際的だった。もちろん、カウンターに出るとき、第二列の上がりの速さ、ボールに集まる速さは、例えドリブルが相手にひっかかったとしても、自分たちのボールにする機会が多いことにもなっていた。

 とはいっても、このチームがオランダと対戦して勝つなどとは……。


(サッカーダイジェスト 1992年9月号「蹴球その国・人・歩」)

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