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92年欧州選手権 世界チャンピオンを2−0

 準決勝でオランダを破ったあと、デンマークの選手たちは、わがチームには世界的なゴールキーパーがいると誇らしげに言った。

 ピーター・シュマイケルは28歳。1988年の欧州選手権の時にも、その優れた素質が評判となった。コペンハーゲン郊外のクラブ、ブレンビーのGKとして認められ、1990年のデンマーク最優秀プレーヤー、そしてマンチェスター・ユナイテッドに移って、チーム躍進の原動力となっている。1メートル91センチの長身、いま身体にみなぎっているという感じで、瞬間的な手の動き、身体の動きの速さは驚くばかり。しかも、落ち着いてシュートの出てくるところをきちんと目で捕らえている。

 こうした実力派のGKが、奇跡的なセーブをし始めると―――というより、ビッグ・トーナメントの優勝にはこうしたゴールキーパーのファインプレーの連続が大きな要因になることを知っていながら、決勝の対ドイツ戦は、やはりドイツ優勢とみるものがほとんどだった。

 それは、1次リーグでオランダに敗れたドイツが準決勝の対スウェーデンで見事な攻撃を披露したからだった。スコアは3−2だったが、完勝といえたし、彼らのドリブルとパス、長短、強弱、高低―――を自在に使う攻めは、まことに現代サッカーの枠のように見えた。

 6月26日、ヨテボリでの決勝の立ち上がり15分間は、そのドイツの攻撃が休みなく続き、デンマークのゴールはいまにも破られそうだったが、シュマイケルの守りは冴えた。そしてゴールを奪ったのはデンマーク。

 18分、右サイドのカウンターで、一度は奪われたボールを奪い返し(ブレーメにビルフォルトがタックル)、ポウルセンがゴールライン近くから後方に戻すと、ノーマークのイェンセンが見事なシュートを決めた。ブレーメのボールを奪ったビルフォルトのタックルをファウルと判断したのか、ドイツのDFは一瞬反応が遅く、それがノーマーク・シュートにつながった。イェンセンにしてみれば、これまでの試合で再三ノーマークのチャンスを失敗していたのが、一番重要な場面で、驚くほどのシュートとなる。このゴールは、それまで受け身になっていたデンマーク選手に自信をもたせた。ボールへ、相手への寄りが目に見えて鋭くなり、「狙ってつぶしにゆく」チームの姿勢を取り戻したのだ。

 もちろんドイツの攻めは、さすがに超一流といえる多彩さだったが、オルセンを軸にK・ニールセン、ピエチニクと2人の長身プレーヤーを中央においた守りは、左右からのクロスボールを跳ね返し、ドリブルの名手へスラーには徹底したマークと“囲み”でその突破とパスを封じた。さらにピンチでは、シュマイケルがファインプレーで対抗した。

 なかでも73分のクリンスマンのヘディングは、近距離からの強いボールだったが、瞬時に手に当てて逃れたプレーは、守りの中にも彼の強い姿勢が現われたプレーといえる。

 一方的に押されっぱなしではなく、時折のカウンター、それもまずドリブルによる持ち上がりから始まるので、その間にDFは態勢を建て直し、マークをチェックできる。

 こうして長い時間持ちこたえて、デンマークは78分に2点目を奪う。ラウドルップへのファウルからFKとなり、このロブのヘディングで応酬。クリスチャンセン(シベベェクと交代)がヘディングで送ったのをビルフォルトが反転して持ち込み、DFヘルマーを内側へ外しながら左足で決めたのだった。シュートに入る前にバウンドしたボールが手に当たったように見え、レフェリーが見逃したミスという記者もいたが……。

 1次リーグでイングランドと引分け、フランスを破り、準決勝でオランダを倒し、決勝でドイツに勝つ。

 誰もが予想できなかったタイトル獲得を果たしたデンマークの、大会での足取りをたどってみたが、彼らのプレーには一貫して“戦う”強さがあった。

 技術の高いオランダが“横網相撲”というのか、受けて立つ気であったように見え、闘争心という点では劣らないはずのドイツも、1点を失ってから焦りが見えた。いや、その最初の失点こそ、相手のプレーをファウルと判断した(レフェリーは認めないのに)甘さがあったのかもしれない。

 イングランドはプレーヤーと監督の間の意見の違いが噂にのぼり、フランスはマルセイユの選手の給料、ボーナス問題などで気が抜けていたという話もある。

 そんななかで、デンマークはただひたむきに、一つひとつのボールの取り合いに勝とうとした。

 もちろん、各選手の体力や技術レベルの高さがあるのは当然だが、人口500万の小国から、どのようにしてハイレベルなプレーヤーが育つようになったのか。ラウドルップ兄弟やシュマイケルや、ポウルセンやアンデルセンがどうして上手に、強くなったのか。また188cm以上の選手が5人もいるが、これら大型プレーヤーがなぜ、テクニックの面でも動きの面でも優れているのか―――こうした背景を、これから私たちは勉強してゆきたいと思う。


(サッカーダイジェスト 1992年9月号「蹴球その国・人・歩」)

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