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オリンピックとサッカー

 バルセロナ・オリンピックでサッカーの観客が少ないのが問題になっている。

 サッカーはむかしからオリンピックの“ドル箱”競技として、その入場料収入は大会の大きな財源になっていた。84年のロサンゼルス・オリンピック以来、テレビからもたらさられる巨額の放映権料が五輪の最も大きな収入となってから、さすがに“ドル箱”という言い方はなくなったが、それでも、最も観衆の多いサッカーは、大会の中でも大きなウェートを占めていたことは間違いない。

 例えば、84年のロサンゼルス大会をみると(1)サッカー142万人(2)陸上競技113万人(3)バスケットボール38万人(4)自転車31万人(5)バレーボール30万人

 80年のモスクワ大会においても(1)サッカー182万人(2)陸上競技110万人(3)ボクシング36万人(4)バスケット30万人

 といった調子で、88年のソウル大会でも、(1)サッカー77万人で、一番多い観客数として発表されている。

 それがバルセロナでは、まるっきり観客が少ない。FIFA(国際サッカー連盟)のアベランジェ会長は、「IOC(国際オリンピック委員会)や組織委員会の、入場券の発売方法が悪いのではないか。マスメディアに対する広報活動が不十分だったのではないか」と不満を表している。

 それに対しバルセロナ側は、今度の大会からオリンピックは23歳以下と年齢制限を設けたために、ネームバリューのあるプレーヤーが各国とも少ないから、スペインのファンの関心を引かないのだ、という声もある。

 FIFAがオリンピックを23歳以下の世界大会と位置づけたことは、オリンピックをそれぞれのスポーツの世界最高の大会にしようと考える、IOCサマランチ会長にとっては承服しかねる措置でもある。そうしたFIFAに対する、あるいは最高のメンバーでないサッカー大会ということから、組織委側に入場券を売ろうという熱意がなかったのかもしれない。 

 しかし、考えてみればサッカー競技は、ロサンゼルスから、そしてソウルでもワールドカップに出ていない選手―――という制限つきだった。さらに84年以前には、西欧・南米、アジア・アフリカはアマに限られ、東欧のいわゆる「ステートアマ」は見逃されても、やはりワールドカップに出場したプレーヤーは除かれていた。したがって、これまでの五輪も、いわばスター不在であったことは間違いない。

 このため23歳以下だから、ネームバリューのあるプレーヤーがいないから―――と言いたてることもないはずなのだが、なにしろスペインのバルセロナ、あるいはカタルーニャ地方はプロ・サッカーの本場。FCバルセロナは今年の欧州チャンピオンズ・カップで優勝。その監督は、あのヨハン・クライフ。チームの軸はオランダのクーマン、攻撃陣には日本でもなじみのミカエル・ラウドルップ(デンマーク)をはじめ、ブルガリアのストイチコフやGKスビサレータ(スペイン)など内外のスターで編成されている。

 こうしたビッグネームに馴れたサッカーファンが、馴染みの薄い外国の(ビッグネームのいない)チームを見るかどうか―――は、よほどPRが浸透しないと難しいのかもしれない。

 オリンピックが各競技種目にプロ導入を奨めるようになったいま、今度の23歳以下という年齢制限をめぐって、IOCとFIFAの駆け引きは今後も続くだろう。

 いまから28年前の東京オリンピックの前後は、アマチュア至上主義のブランテージIOC会長が、プロとアマが同じ協会の中で共存するサッカーを異端視し、ことあるごとにオリンピックとサッカー、IOCとFIFAの意見対立が表面化したことがあった。

 それが今度はプロ化を目ざすオリンピックが“ワールドカップ”をオリンピックに持ち込もうということで、FIFAと対立するとは……。まことに時代が変わったと思う。


(サッカーダイジェスト 1992年10月号「蹴球その国・人・歩」)

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