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第50回 番外編・森島寛晃、西澤明訓 セレッソの追撃戦のなかで黄金ペアの醍醐味を見せた

12月3日の2ゴール

 12月3日、長居でのJ1リーグ最終節、セレッソ大阪対FC東京戦で、西澤明訓の2ゴールを見た。前半3分の先制点は、右からの久藤清一のクロスをゴール正面でヘディングして左下へ決めた。
 2点目は、後半3分だった。ゼ・カルロスが左サイドから中へドリブルし、左足でシュートした。相手DFに当たってボールは高く上がり、エリア内右寄りに落下した。そこに西澤がいた。落ちてくるボールを太ももでトラップしてボールの勢いを殺し、右足でしっかり叩いて、右下スミへ送り込んだ。
 このとき太ももに当たってポトリと落ちたボールは、スピーディーな周囲の動きとはまったく別の春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)の風情――まさにコントロールの見本だった。必死の形相での戦いの中で、必要なときにはやわらかいプレーを出せるのが“アキ”、西澤だった。
 清水東高からセレッソ大阪に入り、若いうちから注目されていた彼は、99年のリーグで初めて2ケタ得点(11)を記録した。
 2トップを組んだのが黄善洪(ファン・ソンホン)、あの韓国のスター・ストライカー。のちに2002年ワールドカップでも活躍した彼は、この年セレッソで24得点(25試合)を挙げてリーグ得点王となった。経験豊かな彼とのペアは西澤の成長を早めた。清水エスパルスの監督をしていたスティーブ・ペリマンが「日本代表クラスのうちのディフェンスが、セレッソの2トップに簡単にやられてしまった」と嘆いたのも、このときだった。
 次の年、黄善洪が去ったあとアキは攻めの軸として、ファーストステージ優勝争いの主役となった。彼と第2列目から飛び出す“モリシ”森島寛晃との「あうん」の呼吸は西澤8、モリシ12、合計20得点を生んだ。最終節で川崎フロンターレに敗れてチャンピオンの座に登れなかったのは、苦い経験だった。


危険地帯への非凡のコースどり

 森島というプレーヤーがゴール前のチャンスとなる地域、守る側からいえば危険地帯へ走りこむうまさは非凡である。
 いいタイミングをつかむだけでなく、その重要なスペースへ入って行く前に、ときにはスワープ、ときにはジグザグといった動きが入り、マーク相手の視野から消えてしまう。いわゆる“消える”の名手である。
 彼の“消える”は“消えよう”として消えるのではなく、本気でディフェンスをし、相手を追うことで、相手の意識から出て行ってしまう――いわば作為的に“消える”のではなく、ごく自然に消えるところが、相手側には厄介なのである。
 それまで、再三、いいところに現れて、ゴールを失敗した彼が2000年に得点力を増したのは、彼自身の工夫でシュートのコツを身に付け、ここというときに落ち着きを増したからだった。
 その強力な個性の攻撃ペアは、2001年には解消してしまう。西澤がスペインのエスパニョールに移ったからである。次の年のプレミアリーグのボルトン在籍とあわせた2シーズン、出場回数は少なく、成功とはいえなかった。その間、セレッソもまた、ボールをトップで受けられるFWを欠いてチームの攻めの破壊力は半減し、2001年にはJ2に落ちた。
 2003年にJ1に復帰したあと、アキ・モリシのペアのゴール実績は低く、大久保嘉人の台頭はあっても、セレッソの低迷は続いた。


守備力整備とブラジル選手

 チームはその間、上背があり、ゲームの読める守備の要(かなめ)となるセンターバックを探し求め、ようやく今年、ブルーノ・クアドロスを獲得した。彼と左サイドのゼ・カルロスに、ミッドフィールド中央部の底もできるファビーニョの3人は、初めてチームに適合したブラジル人トリオとなった。
 小林伸二監督の下で選手の起用が定まり、久藤のコンディション向上によって左右のサイド攻撃が可能になり、したがって攻撃のスペースも見つけやすくなった。2年目の古橋の進歩も大きく、右のシュートはパンチ力がついた。
 守りの軸がしっかりして、攻めに幅ができることで、再び、アキとモリシのペア・プレーが生き生きとし始めた。古橋がこれに絡むことでバリエーションが増え、ファビーニョとゼ・カルロスらブラジル人との理解が深まって、森島のゴールが目立ち始めた。前半戦に1ゴールだったのが、後半戦は5ゴールに増えた。いずれも5年前の量産時を思い出させるスタイルだった。
 最終戦でもモリシはアキの折り返しをヘッドで合わせる見事な侵入を見せた。ブルーノ・クアドロス不在のチームは、守りきれなかったところに無念は残るが、せっかく上り坂になり始めた攻撃力が3点目を取れなかったことの方が残念――残念と思うことが大切だと思う。
 29歳の充実期にある西澤と33歳円熟期の森島がペア・プレーに今一度磨きをかけ、フィニッシュのモデルを示すことをこれからも期待したい。それがセレッソの再興につながるとともに、日本サッカーを覆う得点力不足の暗雲を払うヒントを示すことになる。


(週刊サッカーマガジン 2005年12月27日号)

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