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第52回 番外編・クラブ世界選手権(2)ポンという感じでパスを出したアロイジオにブラジルを見た

リバプールの様変わり

 FIFAワールドクラブチャンピオンシップ・トヨタカップ2005という大会は、期間中とても寒い日が多かった。
 トシを取って寒さがこたえる身ではあったが、それでもやはり、見て面白かったし、考えさせられるポイントがたくさんあった。毎日のように見ている間に、かつてのトヨタカップ、ヨーロッパ・サウスアメリカを代表するチームの対戦時代のプレーが、頭によみがえってくるのも楽しいことだった。
 何よりの収穫はイングランドのリバプールがやってきたこと。サッカーの本家のビッグクラブのタイトルマッチを、旧トヨタカップ以来6回も日本にいて見ることができた。リバプールの名では3度目だが、今度のリバプールは舞台に登場してくるイレブンのうちイングランド勢はジェラード、クラウチ、キャラガー、ワーノックの4人だけだった。外国人プレーヤー花盛りのプレミアシップそのままというところだが、そうした中で評判のジェラードが、対サプリサ戦のダイレクトのボレーシュートをはじめ、いいプレーを見せた。
 なにしろ、このチームは183センチのジェラードが小さく見えるほどの大男ぞろいだったが、その大型の一人ひとりの技術がしっかりしているところは、20年前のリバプールとは異なるように見えた。
 いわば欧州選抜プラス、マリ代表といった態のチームが準決勝でサプリサに3−0で完勝した。相手の反応が遅く、フリーでクロスを出す場面が多く、それだけにいいボールが送られていた。決勝のリバプールに期待が高まったのも当然――。
 ただし、そのチームがシュートを連発しながら無得点。サンパウロの1ゴールの前に退くのだから、サッカーは不思議であると同時に1ゴールの意味をあらためて感じることになった。
 となると、サンパウロのゴールはどうだったのか――。前半27分にミネイロが飛び出し、3人のDF、中央、左、つまりブラジル側からは右と中央のDFの間を走り抜けて、アロイジオからのパスを受け、GKと1対1で向かい合って、右足で左隅へ決めたのだが……。


ミネイロのゴール

 このブラジルの攻撃は、そのしばらく前の左サイドのキープのあと、右へ大きく送ったのを、右DFのファボンが取ろうとしたとき、リバプールのキューエルが鋭く追ってファウルをした。そのFKからの攻めということになる。順序を書いてみると――。
(1)FKをつないでファボンが右でキープする。今度は奪いに来るのが遅い。
(2)前方にはアロイジオとアモローゾがいて、ダニーロがファボンの方へ後退して、もらう恰好になる。
(3)ファボンは、近いダニーロではなく、一人向こうのアロイジオへパスを送る。
(4)戻ってボールを受けるアロイジオの前でボールはバウンドする。彼にリバプール側が二人、挟もうとする
(5)ワンバウンドのボールをアロイジオは胸でトラップし、半身の構えから左足を引いて前を向くと、
(6)トラップのあとの小さなバウンドのボールを右足で“ポン”という感じで蹴った。
(7)ファボンがパスを蹴った瞬間に、右前方にいたミネイロが(蹴る前に少し戻ろうとしていたのを)急反転してDFキャラガーの内を通して前方へダッシュしていた。
(8)アロイジオの右足アウトで送られたボールはやわらかく飛んで、ペナルティ・エリアいっぱいに落ちた。
(9)ミネイロはノーマークでトラッピングし、右足でGKの左下を抜いた。


アロイジオのトラッピング

 ファボンのキックから、アロイジオのトラッピングと次のパスが出るまで3秒かかったかどうか。ミネイロの飛び出しにリバプールの最終ラインは反応できず、オフサイドを叫ぶだけ。彼をシュートの瞬間まで追ったのはシャビ・アロンソだった(ように見えた)。
 アロイジオがボールを胸で止めて、下に落としてから、前へ向いて蹴るまでの動作、そして大柄で、見た目にそれほど俊敏そうでないタイプだがこういうボール処理に独特の速さとやわらかさがあって、そのパスを期待して走ったミネイロにピタリと合ったところが、ブラジルというべきか――。
 こういう重要な一瞬のプレーに日ごろの技術の高さが現れる。
 この日、私が注目していた右サイドのシシーニョ。ドリブルもうまいが、縦に出て深いところから返そうとしたのは当然ながら、斜め後方から、中央へのクサビのパス、それもライナーの速い球を何本か送るのが面白かった。
 シシーニョに限らず、小柄なMF陣と同質のパスを出したのを見ると、それぞれボールを受ける側の技術を信頼しているのだなあと、あらためて思った。
 ノッポのクラウチをもっと早くから出していれば――という声もあったが、それはうなずけること。相手の嫌うことを、なぜベニテスが仕掛けなかったのかは不思議ではあるが…。
 ともかく、面白かった。皆で語る材料がまた増えた。


(週刊サッカーマガジン 2006年1月10日号)

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