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マリオ・ケンペス(3)2次リーグから大きな動きで特色発揮、78年W杯優勝と得点王を手に

 ユップ・デアバル氏が6月26日に亡くなったとDFB(ドイツ・サッカー協会)のホームページが伝えた。80歳だった。
 ドイツ代表チームの監督であったデアバル氏は、釜本邦茂の1968年冬のドイツ留学の時に直接指導して、彼の成長を助けてくれた恩人でもあった。
 62年からコーチとなり、ザール州主任コーチを経て、ドイツ協会のアシスタントコーチとしてヘルムート・シェーン監督の下で働き、78年ワールドカップの後、代表監督となり、80年欧州選手権優勝、82年ワールドカップ準優勝の実績を残した。84年欧州選手権1次リーグ敗退の責任をとって代表監督を退き、トルコのガラタサライの監督を務め、トルコのレベルアップに貢献した。

 釜本を指導したのはザール州コーチだった頃のこと。彼の死去を知らせ、当時のことを電話で話し合った釜本は、「(デットマール・)クラマーさん、長沼(健)さん、岡野(俊一郎)さんと、いい指導者に恵まれたが、デアバルさんに教えてもらったのもとてもありがたかった」と言った。
「デアバル―釜本」を連載の番外編にとも考えたが、別の機会に譲ることにして…。ご冥福を――。


 さて、マリオ・ケンペス。
 78年ワールドカップのアルゼンチン代表に、スペインリーグ・バレンシアでの得点王の実績を持って合流したケンペスだが、1次リーグ(2勝1敗)では得点はなかった。
 その強いシュートは、初戦のハンガリー戦でFKを蹴って、GKのファンブルをレオポルド・ルーケが決めるもとを作ったが…。国内組で人気随一のセンターフォワード(CF)ルーケは、このゴールと、フランス戦での決勝ゴールとなる20mのシュートを決めていた。そのルーケが3試合目のイタリア戦を欠場し、セサル・ルイス・メノッティ監督はケンペスをCFに置いた。必ずしも固定したポジションではないはずだったが、狭い地域で後方からのボールを受ける形になったケンペスは、老獪なイタリアDF陣に囲まれて働けず、結局0−1で敗れた。
 この敗戦でグループ2位となったアルゼンチンは、2次リーグはリバープレートでなくロサリオの小さなスタジアムで戦うことになった。もっとも、ケンペスには古巣だから、戦いやすかったとも言える。

 6月14日の2次リーグB組第1戦、ポーランド戦で、私たちはこれまでとは違うケンペスを見た。
 前半15分に左サイドからダニエル・ベルトーニが送った高いクロスに、ケンペスが走り込み、DFより早くヘッドして先制した。
 2次リーグの前に、アルゼンチンの大先輩アルフレッド・ディステファノがケンペスに「もっと動きを大きくするように」とアドバイスしたという。彼の力強く速いランと、接触プレーの強さが、長い距離を動くことで生きると見たのだろう。この日もCFのポジション(右にレネ・ハウスマン、左にベルトーニのFW)ながら、前線から後方へと大きく移動していた。
 後半21分の2点目もケンペス。オスバルド・アルディレスがドリブルで持ち上がり、ペナルティーエリア前でケンペスへ。ケンペスはボールを受けて切り返し、得意の左で蹴ったシュートがGKの左脇下を抜いた。

 ブラジル戦は0−0の引き分け。ルーケが復帰して、FWはベルトーニを右に、左にオスカル・オルティスを置き、ケンペスはアルディレス、アメリコ・ガジェゴとともに第2列、DFは開幕からほとんど不変の右ホルヘ・オルギン、中央にルイス・ガルバンとダニエル・パサレラ、左がアルベルト・タランティーニ。
 勢いに乗るはずのアルゼンチンだったが、1ゴールも奪えなかった。この引き分けのために、B組1位で決勝に出るためには残るペルー戦に4点差以上で勝つのが条件となった。

 重圧を跳ね返し、アルゼンチン側の硬さをほぐしたのはケンペスのドリブルシュートだった。DF2人の間を抜いて正面から決めた。
 右CKからタランティーニがヘディングで2−0。後半は3分にケンペスとベルトーニのリターンパスから3点目、ルーケがダイビングヘッドで決めて4−0とし、余裕を持ってさらにハウスマン、ルーケが加点した。

 リバープレートに戻っての決勝はオランダが相手。ケンペスの突進と紙吹雪が世界中のテレビに映し出された。
 前半はケンペスが得点。ドリブルしたアルディレスからルーケがボールを受けて、ケンペスへ。ケンペスはダッシュしてアリー・ハーンの追走を振り切り、左足でシュートを決めた。後半に同点とされ、延長へ。
 その前半11分、ケンペスがドリブルでエリア内に侵入してシュートし、GKのリバウンドを右足のタッチで押し込んだ。さらに2−1となって動きの落ちた相手を尻目に、後半にはケンペスのドリブルからベルトーニが決めて3−1とした。
 ドリブル力のアルゼンチンが長蹴力のオランダに勝ったのだが、そのドリブルとシュートを生かすための、選手の組み合わせが面白かった。


(週刊サッカーマガジン 2007年7月17日号)

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