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サッカー 故里の旅 第9回 98年型フランス代表の楽しみ 守りの強さの中の攻撃タレント ユーリ・ジョルカエフ

キーガン監督の推奨は?

「オー、マイフレンド、元気ですか ヨーロッパ選手権に来ていたって。会えなかったネ」 “ニューキャッスルへも取材にいったけれど、キーガン、あなたはテレビの解説などで忙しそうだった”
 8月4日のJリーグのプレシーズン・マッチのために来日したニューキャッスル・ユナイテッドのケビン・キーガン監督と、その前夜のレセプションパーティで会った。
 1970年代のリバプールの欧州制覇の中軸選手。小柄でマイティー・マウス(偉大なネズミ)と呼ばれた彼は、77年のチャンピオンズ・カップ優勝のあとドイツのハンブルガーSVに移り、欧州最高のFWといわれた。
 84年に選手を退いたあと、92年からニューキャッスルの監督に迎えられ、1部(昔の2部)にいた同クラブをプレミアリーグへ引き上げ、95−96シーズンにはマンチェスター・ユナイテッドと僅差の首位争いを演じる強チームをつくり上げた。
 EURO96に話が及んだとき、彼が一番先に口にしたのは「フランスがよかった」だった。きょうは、そのフランスのグループリーグ、対ルーマニア戦から…。


驚くべきフランスの変化

「やはりフランス、こういうプレーヤーが現れてくる」
 試合中の走り書きのメモをチェックしながら、前半をふりかえる。
 グループリーグB組のルーマニア対フランスは、フランス(1−0)のリードで45分を終わっていた。
 90年、94年のW杯代表をずらりと並べたルーマニアは、ハジを軸に左右にボールを散らし、巧みな攻撃展開をみせた。
 それに対してフランスはドゥサイーとブランの2人のCB、チュラン、ディメコの両サイドDFとMF陣が厚い守りで防いだ。
 相手ボールへの寄りの早さや、タックルの鋭さ、強さ、反則をも辞さない激しさは、これまでのフランスのイメージとはずいぶん違っていた。
 ファウル数13(ルーマニア、6)、イエローカード1(ルーマニア、0)という数字が彼らの“奪う”意識の強さを表していた。
 58年W杯のコパとフォンテーヌのあの攻撃チーム、あるいは70年代後半から80年代にかけてのプラティニ、ジレス、ティガナの華麗なパス攻撃のチームといった歴史から、フランスは守りよりも攻めが好き――という印象が強かったが、今度のジャケ監督は守備の強化にまず重点を置いたようだ。それは、90年、94年のW杯で予選で敗退し、92年の欧州選手権でもベスト4に残れなかったあと、98年の自国でのW杯開催に好成績を期待されている代表チームの監督としては、当然の策であったかもしれない。
 かつては、攻めることに気持が先走り、ときに守りへの集中力の薄れる感のあったフランス代表が、この日の45分間のように、最前線の選手から守りに入るのは、わたしには新しい驚きだった。
 その守りに強い、力闘型のチームの中に攻めのタレントがいるところがフランスというべきか――。
 彼らの配置は、前述の4DFの前に右からカランブー、デシャン、ゲランのMF、その少し前方にジョルカエフとジダンがいて、長身、ワントップのデュガリーの動きに合わせてスペースへ上がってくる。
 その攻めのなかで9番をつけたユーリ・ジョルカエフの動きが、わたしの目を引く。ボールを持って相手のタックルをかわすときのステップのうまさ、右のアウトサイド、インサイドを使った短いパス、そして、長いパスの正確さ。


ロングボールの得点

 フランスの得点は、右からの彼のロングボールをデュガリーが高いジャンプヘッドで決めたもの。エリアに入ったところへ飛んだボールに飛び出して触れることのできなかったGKステリャのエラーでもあったが、それだけの危険を感じさせるタイミングのいいロングボールだったともいえる。
 このゴールのすぐあとで、右からのパスをエリア内で止めて、それを後方へ流してデシャンにシュートをさせたプレーや、得点の前に、後方からのパスを体をひねっての反転シュートでGK正面へ蹴ったシュートは、彼がボールテクニックだけでなくゴール感覚にも優れるとともに、相手の予想外のプレーを演じる選手であることを示したといえる。
 若いころからテクニックの高さでは評判だったユーリが代表入りしたのは93年から。その評価が固まったのは95年にモナコからパリ・サンジェルマンに移ってから。花の都の人気チームで彼は欧州カップ・ウィナーズ・カップの優勝に貢献し、代表でも、欧州予選で「点の取れないチーム」を点の取れるチームに変えた。


カントナを加えなくても

 もちろん、もう一人の攻撃的MFジダンや、MFのデシャン主将、右サイドの黒人カランブーの精力的な動きがなければ、彼ひとりで攻撃を組み立てられるわけではないが、ジョルカエフの独特の「間(ま)」のとり方は、激しさと動きの量を前面に押し出すこのチームにフランス的な香気を加えるものだ。
「面白いですネ、フランスは」席を立って声をかけるO氏に、わたしは“ヨーロッパでみるヨーロッパのチーム同士の試合は、夜の涼しさもあって、スピーディーで楽しい。そう、このフランスを見ていると、ジャケ監督がマンチェスター・ユナイテッドのカントナを入れない理由がなんとなくわかる気がする”と答えた。
 そして、28歳という遅咲きの感のあるジョルカエフと、このチームが98年フランス大会までに、どのように成長するのか――このあとの45分を、いやEURO96をどう戦うのかを想像してうれしくなるのだった。


(サッカーマガジン掲載)

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