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サッカー 故里の旅 第14回 PKのピンチ直後のガッザのビューティフル・ゴール 伝統の一戦の劇的な終盤
ジョルジーニョのFKセオリー
Jリーグ18節首位アントラーズが4−2でセレッソを破った試合で19歳の柳沢と21歳のロドリゴがそれぞれ2得点した。4点目のロドリゴの左足のFKは見事なカーブにも驚いたが、このFKで感心したのはジョルジーニョのパス。自分がキックすると見せかけ、右足のソールで1メートル動かして、ロドリゴのシュートコースを開けたところ。
ジョルジーニョは来日以来、シュートレンジのFKに(わたしが見た試合では)いつも、複数の選手をキック位置に立たせる。それは、
(1)相手のDFとGKに誰がキッカーかの判断を難しくさせる。
(2)相手DFのカベと、キッカーの得意のコースによっては、キックの位置を移動する――ためだ。ブラジルのトップ級はそうなのだが、日本選手も、その着眼点と、セオリーへの忠実さを見習ってほしい。
イングランド象徴的ゴール
さて「EURO96」のわたしの旅は、前号のあとを受けてイングランド対スコットランド、後半のスペクタクルな展開です。
“きょうは大丈夫、遅れることないだろう”
動き出した客車のシートで、もう一度、タイムテーブルを確認する。
リバプールのライムストリート駅発が11時52分、シェフィールド到着が13時44分だからヒルズボロ・スタジアムには14時30分には行ける。
試合(クロアチア対デンマーク)の開始が18時だから、プレス・ルームでロシア対ドイツ(15時、オールドトラフォード)もテレビ観戦できる。もし前日のように列車が2時間遅れてもキックオフには間に合うだろう。
前日、リバプール−ロンドンを往復しながら、イングランド対スコットランドの試合開始に間に合わなかった(列車の遅れで)反省から、余裕を見てのスケジュールだった。
それでも、15日は後半だけでも見ることができてよかった。まことにドラマチックな45分だったから――。
そう思いながら、バッグからノートを取り出して後半のメモを読み、試合を振り返る。
「マクマナマンのドリブル突破がイングランドを勢いづける」とある。
前半は左サイドにいた彼を右サイドのMFに移し、後半から投入(ベテランのピアースに代え)したレドナップと並んだのがよかったのか、イングランドの右サイドでのキープや突破が目立つようになった。このペアに、右FBのG・ネビル (マンチェスター・U) も加わっての攻めから、52分の先制ゴールが生まれた。
ドリブルで進んだマクマナマンがエリアのすぐ外で右のネビルへ。ノーマークのネビルは、余裕をもってしかもダイレクトでクロスをファーポストへ送る。そこにシアラーが、その外にはシェリンガムがいて、シアラーの頭がボールを叩いて、ビューティフル・ゴールとなった。
マクマナマンがパスを出すとき、彼の後方からアンダートンがかけ抜けてニアポスト側へ突進、中央にはガスコインが入っていて、ここというクロスに、ゴールへ殺到するイングランドの象徴的な得点だった。
あのマカリスターがPK失敗
元気づくイングランドの攻めに対して、スコットランドも攻め返す。
FKやCKからヘンドリーやデュリーの強いヘッドがゴールを脅かし、そのたびにGKシーマンがセーブした。そして77分にPK。スコットランドに同点のチャンスがきた。
キッカーは主将のゲリー・マカリスター。経験豊かな31歳、グラスゴー近郊の出身、現在プレミアリーグのリーズの主将で、92年のリーグ優勝を果たしスコットランド代表40試合。92年欧州選手権にも出場し、そのパスの正確さとプレースキックのスペシャリストとして知られている。
ところが、その停止球の名手がPKを失敗するのだから、サッカーは何が起こるかわからない。
マカリスターが右インサイドでキックしたボールをGKシーマンが横に飛びながら左手のひじではじいた(CK)のだ。うなだれるスコットランドのキャプテン、やった!!と声をはりあげるイングランドのGK、その明暗は1分後にさらに大きく広がった。
左足でボールを浮かせ…
それはガスコインのスーパーゴールだった。PKのあとのコーナーキックをも防いだシーマンはロングキックを相手陣内へ、ハーフラインを越え、センター・サークルやや左寄りでシェリンガムがこれを取って、左へドリブル、ライン際のアンダートンにパス、アンダートンがこれをガッザへ。ワンバウンドしたのをガッザは左足で浮かせてへンドリーの頭を越す。急いでターンしたへンドリーはバランスを崩す。落下点に入ったガスコインは、落ちてくるボールを低いところで捉え、右足で叩いてゴール左下へ送り込んだ。
16日付のサンデー・タイムズは、「Gascoigne : a moment of magic that finally saw off the Scots」の見出しでこの得点をイラストで紹介したが、まさにPKという大ピンチのあとで生まれた彼のマジックのようなプレーがスコットランドに引導を渡したのだった。
わたしはメモに、こう書き加えた「ネバー・サレンダー(決して降服しない)。粘り強いブレイブハートも、さらに勢いづくライオンハートから12分で2点を奪い返す力はなかった」と。
急に賑やかになった。赤白のTシャツの大男たちで車内はいっぱいになった。マンチェスターのピカデリー駅からデンマークのサポーターたちが乗り込んできたのだった。彼らもミドルスブラへ歌いにゆくのだろう。さあ、どんなスペクタクルな場面が待っているのか――。
(サッカーマガジン掲載)