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サッカー 故里の旅 第15回 試合の流れを読むザマーの鋭さでドイツ、ロシアに快勝

イングランド・リーグの経済力

 名古屋グランパスのベンゲル監督が9月限りで去り、イングランドのアーセナルの監督に就任することになった。Jリーグの下位にいたグランパスを一段上のチームに作り変えたベンゲルの手腕を、このあと、もう少し見たいところだが、今年末で契約期限の切れる同監督には、サッカーの母国の、それもロンドンの伝統と人気のチーム、アーセナルからの招きは魅力だったに違いない。
 イングランドのビッグクラブが、日本にいるフランス人監督に注目し、交渉するというのは、プレミアリーグの各クラブの競争の激しさと強化への意欲のあらわれ、そしてその意欲を支える経済的な豊かさの証(あかし)だと思う。

 そのひとつはテレビの放映権料。
 96−97シーズンで終わる現在の契約はBスカイBが年間、4500万ポンド(約74億7000万円)BBC(週末のダイジェスト)が年間400万ポンド(約6億6400万円)の高額。
 それが、ことし6月5日に、97−98シーズン以降4年間の契約を更新したが、なんとこれまでの4倍の高値。BスカイBは、全試合中継で6億7000万ボンド(約1112億円)BBCも730万ポンド(121億円)――。BスカイBというのはブリティッシュ・スカイ・ブロードキャストで英国では単にスカイといっている、いわゆるペイ・テレビ(有料テレビ)で9月に来日したマードック会長のニューズ・コーポレーションの傘下にある。97−98シーズンから大幅にアップするのは、その200もあるチャンネルを使って、プレミアリーグの全試合を放映し、それぞれ好きなチームのチャンネルを見てもらおうという計画だ。
 この、新しいシステムについては別の機会に謙るとしても、イングランドのリーグがペイ・テレビによって経済力を増し、その影響が日本にも及んできていることを知っておきたい。


膠着を破るザマーの突進

 さて、欧州選手権を追う「EURO96」の旅は、6月16日、シェフィールド・ウエンズデーFCのホーム、ヒルズボロ競技場のプレス・ルームでドイツ対ロシアのテレビ観戦。
“やはりザマー。後方からゴール前へのスペースへ走り、メラーからのパスをダイレクトシュート”とメモ帳に書きこむ。
 16日午後4時10分すぎ、ヒルズボロのメディアセンターにあるテレビの画面にはドイツのゴールがうつし出されていた。
 この日、D組のクロアチア対デンマーク(18時開始)を見るためにリバプールからシェフィールドへやってきたわたしは、まず、競技場のメディアセンターのテレビでC組のロシア対ドイツ(リバプール、アンフィールド、15時開始)をテレビ取材していた。
 すでにチェコに勝っているドイツは、2勝目を挙げてベスト8進出の足場を固めたいところだし、第1戦でイタリアに惜敗したロシアは、ここで負ければ準々決勝への望みはなくなる。その両チームの勝利への闘志は、前半の開始早々からの激しい攻防となった。ドイツにメラーの強烈なダイビング・ヘディングのシュートがあれば、ロシアには右ポストに当たって跳ね返るツィンバラルの右足ボレーシュートがあった。

 0−0ながらドイツのボールキープの時間が多かったのが、後半に入るとロシアが中盤で積極的になってボールをキープする。
 ドイツはしばらく守勢になるが、こういうときのドイツの守りは固く、モストボイをはじめとするロシアの巧みなドリブルも効果が薄い。攻め疲れの気配があらわれた57分にドイツがリベロのザマーの突進から先制点を奪った。
 それは、左のツィーゲの長いクリアから始まった。相手の深いパスを中から左へ走って、体をひねって蹴ったツィーゲのキックは、左足の得意な彼らしく、左タッチラインに沿って長く飛び、これを処埋したロシアのDFはGKハーリンにバックパスをし、GKがこれをタッチに逃げた。このスローインがメラーにわたり、メラーは中央のザマーへ、ザマーはそれをメラーに返す。
 メラーがキープし、ゆっくり動くとき、ザマーが、ゴール前中央やや右よりにポッカリ開いた空白地帯へ走り出し、間髪いれずメラーからパスが出た。追走するロシア側より早くボール落下点に走ったザマーはバウンドして上がったボールをボレーシュート、GKハーリンは強い勢いに前へはじき、走りこんだザマーが左足でこれをネットへ送りこんだ。
 ザマーの見事な判断とシュート力、メラーのパスが組み合ったビューティフルゴールだった。

 負けられないロシアにとっての1点は重い荷となってのしかかる。攻めながら点を取れない苛立ちから、前半にまでイエローをもらっているコフツンが再び反則タックルして退場処分――10人の不利な態勢になってしまう。
 その6分後、クリンスマンの会心のゴールで2−0となる。ビアホフから短いパスを受けた彼は左足で止め、右足で斜め左前へボールを流して、DFの前を走り抜け、右足アウトサイドで、ずばりとゴール左上隅に決めた。パスを受ける前からシュートへの手順が頭の中に描かれていただろうか――。
 勝利を確定的としたドイツは交代で入ったクンツが相手ゴール前でバランスを崩したDFからボールを奪い、クリンスマンに渡して3点日を加えた。
 第1戦のチェコ(2−0)と同じように、技術的に差はないのに3−0、ドイツのチームとしての強さがテレビ画面からも伝わってきた。ナマの試合のキックオフまであと1時間だった。


(サッカーマガジン掲載)

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