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サッカー 故里の旅 第17回 明暗分けたPK。難攻不落のシュマイケルもクロアチアに完敗
不思議な三角関係
「Suker punch makes Schmeichel suffer(シュケルのパンチ、シュマイケルを痛めつける)」
「Suker's double blow floors champions(シュケルの2発、チャンピオンを倒す)」
6月17日、月曜日の朝、わたしはリバプールのホテル、アトランティック・タワーの自室で、新聞に目を通しながら、前回チャンピオンのデンマークがクロアチアに0−3で完敗した試合をふりかえっていた。
第1戦の対トルコ(1−0)と合わせてクロアチアは2勝、ベスト8への足取りをほぼ確実にした。ポルトガルとの第1戦を引き分けているデンマークは、これで1分1敗、準々決勝へ残るのは難しくなった。
4年前の「EUR092」スウェーデンでの大会でデンマークは地域予選第4組で2位だったのが、出場停止処分のユーゴスラビアに代わって出場し、予想外の優勝をさらった。そのユーゴの出場停止の理由は旧ユーゴスラビアの連邦国家が解体したあと、ボスニアやクロアチアへ武力介入して、国連の制裁を受けたためだった。
そのデンマークが、4年後には、ユーゴとの紛争の当事国のクロアチアに敗れて、連続優勝への足場が危うくなるのも不思議なめぐり合わせと言うべきか――。
試合は、はじめのうちは両方にチャンスがあって面白かったのが、53分のPKから、一気にクロアチア側に傾いた。
これは、シュケルからの見事なスルーパスをスタニッチが追ってエリア内に入ったのを、デンマークのGKシュマイケルが防ごうとしてスタニッチを倒した反則によるもの。
スタンドから見たところでは、シュマイケルはボールに対してプレーしたように見えたが、フランス人のバット主審は笛を吹き、スポットを指さしていた。
先に動いたシュマイケル
ピーター・シュマイケルというゴールキーパーは、92年の欧州選手権のデンマーク優勝の最大の功労者であると同時に、イングランドのプレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッドの看板の一人でもある。
95年のリーグの最優秀フォトのひとつに、彼がゴールの右上スミのボールに対して手を伸ばして防いでいるシーンがあったが、その左手が、ボールをはじくのではなく、エビの先端を曲げて捕らえようとしているのが、見事に映し出されていた。
好調のときは、彼のゴールを破るのは、とても難しいキーパーだから、実はこのときのPKでも、彼がどのように防ぐかを期待したのだが――。
11メートルのスポットにボールをおいて6メートル後方からスタートしたシュケルに対して、シュマイケルはキックの前に自分の左手側にヤマをかけ、右手側を抜かれてゴールを許した。助走のときにシュケルが、3歩目あたりで、右足のステップで、小さなフェイントを入れたのが効いたのか――。シュマイケルはPKの際に先に動かないことでわたしは評価していたのだが、いささか裏切られた感じもした。プレーヤーの気持ちまで推し量るのは難しいが、PKを取られたことに対する不満がくすぶりつづけて、シュートを防ぐという一点に集中できなかったのかもしれない。
強敵に対する幸運な先制ゴールでクロアチアは勢いづく。
デンマークも、ラルセンやブライアン(ラウドルップ弟)のシュートがあったが決まらない。ラルセンは92年の優勝のときの得点者だが、彼はツボの角度に入るとすごいシュートがいくが、その角度がずれると命中しない。ブライアンのはポストに当たって惜しかったが、徐々にクロアチアの攻めの方がチャンスを増す。そして80分に決定的な2点目。
エリア内で、左からシュケルが速いクロスをゴール前へ通し、ボバンが右ポストで捉えた。シュケルは一瞬立ち止まった状態から、相手DFに当たったボールを取って、シュートのように速いクロスを送った。
0−2となって挽回を焦るデンマークは、総攻撃に出るが効果はなく、逆にシュケルにビューティフルシュートを決められてしまう。
クロアチアの速いカウンターに対して、フィールドプレーヤーのように前進していたシュマイケルが後退して、ゴールエリアでシュケルのドリブル・シュートに備えようとしたとき、シュケルはドリブルしながら、左足でボールを見事に浮かせてGKの上を抜いた。ふわりと上がったボールは、シュマイケルがジャンプして伸ばした指の上をこえ、ゴールに落下して3点目となった。
もっとも、この89分の3点目を、わたしは見ていない。20時38分発の列車でリバプールへ帰るため、あと5分あたりでヒルズボロ競技場を飛び出し――バスに乗って駅へ向かったからだった。
その帰途、列車のなかで記したメモには、“84年のフランスでの欧州選手権でデンマークは新鮮な驚きだった。86年W杯はミカエル・ラウドルップとエルケーアの突破でウルグアイに完勝、ドイツにもグループリーグで勝った。そして92年には予想外の欧州制覇――。10余年の彼らの試合には、初々しさとひたむきさがあったのに――”とある。
それを読みながら、もう一度新聞に目をとおす。快勝したクロアチアのブラゼビッチ監督が準々決勝ではドイツと対戦したいと語ったとあった。ドイツのようなスタイルはクロアチアにはやりやすいから、と言っていた。
新しい国の意気込みと、サッカー技術者らしい自信がのぞいていたのだが――。
(サッカーマガジン掲載)