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【番外編】大久保嘉人 エジプト戦で前田とともに輝いた天性のストライカー

 連載はマルコ・ファンバステンの3回目で、いよいよ88年欧州選手権(EURO88)に入るのですが、日本代表の対エジプト戦で、大久保嘉人と前田遼一が決めたゴールについて番外編とさせていただきます。

 大阪・長居でのAFCアジア・アフリカチャレンジカップは、日本が4−1でエジプトを破った。
 ヨーロッパ大陸のトップリーグへ多くのタレントを送り出しているアフリカ大陸のチャンピオンに快勝した。それも前田遼一(磐田)大久保嘉人(神戸)という、これまで代表実績の乏しかったFWが点を取ったのだから、大喜びしたいところだが、エジプト代表といっても、この国を代表する強チームのアルアハリの選手たちが日程の都合で抜けていて、ベストメンバーとはほど遠い。
 それが遠征というハンディキャップを背負っているとなれば“快勝”の喜びも、半ばというところだろうか。
 とは言っても、4度ゴールを奪う。それが大久保(2得点)前田(1得点)加地亮(1得点)であったことは、やはり私の記憶に残るゴールであり、試合でもある。ことに、この試合が日本代表チームにとっては、2007年の最終戦――来年に入ると、いよいよ2010年ワールドカップ・南アフリカ大会の予選が控えている。
 その正念場の前の年に、前田、大久保がゴールを決めて、FWの一角に入ってきたのは、本人たちにも、ジャパンブルーにとっても悪い話ではない。

 前田は1981年10月9日生まれだから、26歳。ボールを受ける技術、止める技術がしっかりしていて、今のセンターフォワードとしては長身とまでは言えないが、183cmの上背でヘディングも強く、右、左の足のシュートも巧みで、私がずっと注目してきたプレーヤーだ。いわば、何でもできるFWで、欲を言えばそのオールラウンドの技術から、得意な突出部分が欲しいところ。これはレベルの高い相手との試合、有能な仲間との連係、あるいは代表特有のモチベーションの中に身を置くことで、自然と身につくはずだ。
 彼がシュートレンジにあるときに、まずシュートするという意欲を持つこと、まずシュートというその姿勢から、次のバリエーションが生まれることをつかめば、次のステップへ上がれるだろう。

 大久保は、C大阪にもいて、インタビューもした。小柄だがヘディングが強く、シュートもうまい。走るスピードだけでなく、緩から急への変化や、相手を前にしてボールキープしたときの落ち着き――といった攻撃的プレーヤーに必要なものを、すでに高校生の頃から持っていた。
 その資質は、スペインのマジョルカでのデビュー戦ゴールをはじめ、“ここ”という試合での働きとなって表れたが、プロフェッショナルとして最も大切な、常に安定して良いプレーをファンに見せる、チームのためにやってのける――という点に欠けていた。  今年、神戸で14ゴールを重ねるようになった(28節終了時点)。
 チームプレーのコツをつかみ始めたのかもしれないし、ストライカーとしての彼の特色を仲間が理解し始めたのかもしれない。

 エジプト戦で、彼は21分にペナルティーエリアのすぐ外、正面で、相手DFの処理ミスのボールを拾って左へ流れ、左足シュートをゴール右上隅近くへ決めた。
 平均して、こういう角度のシュートは相手GKの正面(あるいはリーチの中)へ蹴るプレーヤーが多いが、大久保はちょっとひっかけ気味に、深い角度のシュートで、GKアブド・エルモンシェフの届かぬところへ送り込んだ。
 ずいぶん前のことだが、彼とのインタビューで、ゴール前、右寄りからファーポストへの得意のシュートの話になったとき、私が「その形にもう一つ、ニアポスト側へゴールキーパーの肩より上へズバリと蹴るのもあるよ」――と言うと、ちょっと不思議そうな顔をしていたが、次の週の試合でズバリとニアへ右足シュートで決めるのを見た。その会話のときに、彼の目の輝きを見て、ゴールキーパーへの意識、シュートそのものへの興味の強さを知ったのだが……。

 42分の2点目はヘディング、遠藤保仁の右CKがDFにはね返され、中村憲剛が拾ってパス。もう一度、遠藤が丁寧にクロスを上げ、それに合わせたもの。自分より長身の相手の間に入り込んでのヘッドだった。
 前田のゴールは、狭いスペースの中で山岸からの短いパスを受けて、持って出て、決めたもの。
 彼らが、この日のゴールを足場に、精度の高いストライカーに成長してくれるのを願っている。


(週刊サッカーマガジン 2007年11月6日号)

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