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ロナウド(8)強敵トルコを破り、決勝へと導いた“トウキック”の一撃

「岡田(武史)さんは、守り重点じゃないんですか。その点、僕は気がかりですが」
 ホテルから東京へ向かうタクシーで、キリンチャレンジカップを昨夜、見てきた――と言うと、ドライバー氏はこう言った。
 イビチャ・オシム監督の病で、新しく監督になった岡田武史の下での日本代表公式試合シリーズということで注目された「キリンチャレンジカップ2008」の対チリ戦は0−0、対ボスニア・ヘルツェゴビナ戦は3−0の成績だった。
 チリの方は、チームとして十分練習を積んできたことをうかがえる動きの良さ。ボスニアは、後半にガタッという感じで動きが落ちた。そういう相手の状態はあったにしても、日本代表のチームワークは第1戦よりも第2戦の方が良いように見えたから、多くのファンも関係者もホッとしたことだろう。チリ戦の翌日に乗った前述のタクシーの運転手さんも、その一人だろうか――。

“接近、展開、連続(継続)”というラグビーの大西鐵之祐さん(故人)の言葉を岡田監督が言いだして、まず選手を驚かせ、メディアを喜ばせつつ、選手の自主判断というごく当たり前のことを、もう一度選手に強調して、それが第2戦で(相手のプレッシングが少なかったこともあるが)うまく働いたところに岡田監督自身の98年以来の10年のキャリアがあり、監督の指示やヒントを受け取る選手側にも(顔ぶれは変わっていても)代表チームとしての10年の蓄積があった。

 右サイドに、ボールを持つ“かたち”の良い内田篤人を2試合に起用したのも、チーム活性にプラスになるだろう。
 第2戦には大久保嘉人をトップ下に置いたこと、また控えの山瀬功治、播戸竜二の投入、また今野泰幸をMFで登場させたのも成功した。
 もちろん、“接近”でも“展開”でも“連続”でも、そのときその場でのプレーヤーがきちんと止め、きちんとボールを蹴ることが大切なことは言うまでもないが、キリンチャレンジカップの2試合でこれまでのレギュラークラスに新味を加えた日本代表のワールドカップ予選の第1戦(対タイ戦:2月6日/埼玉)が楽しみになってきた。

 さて、連載のストライカーはロナウドが02年日韓ワールドカップのファイナルに突き進むところ――。

 02年6月26日。ワールドカップ準決勝トルコ対ブラジルは、前半0−0。トルコが前半はじめにチャンスを生み、やがてブラジルの攻撃ショーが場内を沸かせた。
 20分にロナウドが相手DFを引きつけて右のスペースに流し込むと、カフーが走り込んでシュート。GKリュストゥ・レチベルが防いだが、70年大会優勝のあの円熟期のペレとその仲間たちの右サイドにシュートスペースを作るローテーション攻撃さながらのパスワークに、スタンドのブラジルファンは大きくどよめき拍手をした。ロナウジーニョを欠いてはいたが、その攻めの楽しさは変わらなかった。
 前半のシュートは9本。カフー(1)ロベルト・カルロス(3)リバウド(3)ロナウド(2)――そのシュートはすべて低く、抑えがきいていた。

 曲芸的なボール扱いやドリブルのうまさを、ブラジルサッカーの特色に挙げる人は多いが、正確なキックこそブラジルのトップクラスの長所だと私は思っている。後半はじめ、その“キック力”が面白い形でゴールに結びついた。
 後半開始とともにブラジルが攻め、トルコが押し戻した。そのトルコの攻めを防いでブラジルがカウンターに出た。
 GKマルコスが左サイドへ開いたジウベルト・シウバにボールを送り、G・シウバはドリブルしてハーフウェーラインを越え、左タッチライン近くからロナウドにパスした。ペナルティエリアの左角の外10mあたりでロナウドはボールを受け、いったん外へ動いてファティフ・アキエルをかわして、内へドリブルで侵入し、エリア左角を少し入ったところでシュートした。彼の靴先(トウ)で蹴られたボールは、GKリュストゥの予想より早いタイミングだったはず。伸ばした手に当たって右ポストぎりぎりに入った。
 深い自陣ゴールからのカウンター、ドリブルのあとの1本のパスを受けたロナウドのドリブルシュートの成功。それもトウキックという“かくし芸”だった。

 ブラジル通は、フットサルをやっていたロナウドだから――と言ったが、相手GK、そして自分の進路、左右の相手DFの位置などの彼我の相関関係を一瞬に読み取りトウキックを選択した(もちろん理論的でなく、一瞬の決断で)ところが、ストライカー中のストライカーたるところだろう。
 70年に私は釜本邦茂が99点目のゴールを、姿勢を崩しながらトウキックで決めたことを知っているが、ロナウドのこれは粘り強いトルコを突き放し、02年の決勝への道を開くことになった。


(週刊サッカーマガジン 2008年2月12日号)

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