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ブラジルとオランダ

 そのダラスで、私はオランダとブラジルの対決を見た。
 実力者同士の試合の楽しみは、例のレフェリーのオフサイドをノーとした判定で、すっかり後味の悪いものになったが、それでも、欧州と南米を代表する選手の意地のぶつかり合いは見ごたえがあった。
 もちろん、長い時間をかけて十分に組み上げたブラジルと、大会の間際まで監督批判やファンバステンの出場の可否などが決まっていなかったオランダとでは、チームの仕上がりという点では差があった。
 しかも、オランダの俊足ウイングと期待されたオーフェルマルスがブラジルのDFブランコとの1対1の対決に勝てなかったから、ゲームはブラジルの一方的なものになりそうだった。
 それを救ったのはベルカンプやヨンクの突破力だった。ブラジルのDFでさえ2点のリードでホッとしたとき、そして疲れが出たときには簡単に突っ切られるという、これもサッカーのある一面を見せてくれた。

 それにしても、この日のブラジルの中盤陣、ドゥンガたちのライカールトへの徹底的なプレスディフェンスは、なかなかの見ものだった。ライカールトが彼には珍しいパスミスをして、ブラジルの1点目の因を生んだのもやはり彼へのマークが効いたからだろう。
 オランダはサッカーの指導という点では優れていて、優秀なプレーヤーを育てるところだが、フリット、ファンバステン、ライカールト、さらにはクーマンと欧州の大スターを持ちながらW杯に関しては90年、94年とついに一度もその全員が好調でそろったことはなく、今回も退くことになった。
 W杯の優勝を願う心は、ブラジルの方が強く、彼らをさえぎるものは誰もいないかのようだった。


(J-ELEVEN 1995年4月号「FLYING SEVENTY W杯USA’94 アメリカの旅」)

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