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ヒロインのつぶやき

 ゴルフの発祥の地セント・アンドリュースのコースを持つスコットランドは、また、サッカーの“歴史大国”だ。イングランドの隣にあって、独自のスタイルを保持するこの国は、これまで、ワールドカップでは1次リーグ敗退を繰り返してきた。
 イタリア’90の檜舞台への態勢を探りながら、そのあゆみを振り返り、くに、人を眺めてみよう。

 3月下旬に放映されたNHKテレビのドラマ『ジンジャー・ツリー(GINGER TREE)』は、日本の軍人を愛した英国女性が、第2次大戦前の、東京での息の詰まるような生活の中で苦悶していく物語。そのヒロインが、ある人に紹介されるときに「この方がイングランドから来られたのです……」というのを聞きながら、「私はスコットランドなのに……」と呟くくだりがある。
 日本人は、イングランドといえば英国のことと思いがちだが、英国は正式には「グレートブリテン・北アイルランド連合王国」。英語ではUNITED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTH IRLANDとなる。
 日本でイギリスと呼ぶのは、ポルトガル語のINGLES(イングレス)が変化したものだが、このもととなるENGLAND(イングランド)は、グレート・ブリテン島の南、この国の中心部の地域を指す言葉。ゲルマン系のアングロ人が大陸から渡って住みついたため、アングロ人の住む地ということから、イングランドとなったものという。

 スコットランドは、このグレート・ブリテン島の北部地域を指すが、ローマ軍の勢力が衰えた5世紀ごろに、西方のアイルランドにいたケルト族の一部族スクイト(SCUIT)族が移住し、先住のカレドニア人と混血、共存した。このスクイト人を、東からやってきたアングロ人たちが、間違ってスコットと呼んだらしい。そして、スコットの住む土地、スコットランドという地名になったという。
 スコットランド人は強力な王国を築いたが、やがてアングロ人の勢力に押され、戦いを繰り返した後、1707年にイングランドと平和的に合動し、北アイルランドなどを含めて、連合王国(ユナイテッド・キングダム)というようになった。だから、スコットランドは英国の一部であっても、イングランドではないと彼らは言う。

 そんな歴史を背景に、スポーツの世界でもオリンピックは英国として一つにまとまっても、たいていの競技では、通常はイングランドとスコットランド、それにウェールズ、さらにアイルランドの北部にある北アイルランドの4つに分かれ、それぞれ別に国際スポーツ連盟――サッカーならFIFAに加盟し、別のチームを送る。ワールドカップも、この4つの協会はそれぞれ代表チームをつくり、予選に出場して本大会を目指している。


(サッカーダイジェスト 1990年5月号「蹴球その国・人・歩」)

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