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エウゼビオ(4)対サントス、対ペニャロール。強豪相手のゴールで一躍スター

 3月4日のNHKで放送されたテレビ番組『オシムを日本のクラブに招いた男』サッカークラブGM(ジェネラルマネージャー)祖母井秀隆(うばがい・ひでたか)は、とても興味深かった。
 関西育ち、大体大出身のこの人には何度かお目にかかり、話し合ったことがあり、その業績も人柄も存じているが、大きなテレビ局がクラブ運営そのものに目を配り、そのアドミニストレイター(管理者=プロ野球ではこの部内をフロントと呼んでいるが)の重要性に注目するようになったことが素晴らしい。ジェフのGMとして手腕を発揮し、現在はフランスのグルノーブルのGMを務めている祖母井さんの仕事ぶりや哲学を取り上げたのが、とてもうれしかった。
 彼よりも年長の世代にも、数は少なくとも良いGMはいたが、50歳そこそこの働き盛りの祖母井世代でこうした人材が育ってくれるのを願う。そういえば、彼の著書『祖母力(うばぢから)』(光文社)が今年1月末に発売された。読んでみると、イビチャ・オシム前日本代表監督のこと、祖母井GM自身の言動にも思い当たる節があって面白かった。

 さて、エウゼビオの話――。
 1961年5月23日、19歳の彼が天下晴れて赤のユニフォームを着ることになった。それはリーグ戦でもなく、カップ戦でもなかった。5月31日の欧州チャンピオンズカップ(現・欧州チャンピオンズリーグ)決勝に出場するベンフィカのトップチームの壮行試合であり、ベンフィカのリーグ戦優勝を祝うセレモニーの試合でもあった。
 本来なら、彼はベルンでの決勝に登場させる計算だったが、移籍問題が長引いて3ヶ月前の登録という規定に阻まれたのだった。エウゼビオという選手の不思議さは、こういういささか変則的なデビュー戦であっても、観客の期待どおりにしっかりゴールを決めること。3ゴールで4−2の勝利に貢献した。
 若きストライカー・エウゼビオの登場はなかったが、ベンフィカはベルンでの決勝を3−2で制して初優勝を遂げた。対戦相手であった当時のバルセロナ(スペイン)には、あの1950年代のマイティ・マジャール(偉大なハンガリー人)のメンバーがいた。FWのシャーンドル・コチシュやゾルターン・チボールがいたが、54年ワールドカップ決勝の舞台でもあったベルンという町は、またしても彼らには味方しなかった。同じハンガリー出身のベラ・グッドマン監督のもとで、運動量の多いサッカーを展開するベンフィカに軍配が上がった。

 この年の夏、ベンフィカはパリでペレのサントスFC(ブラジル)と顔を合わせることとなる。アンデルレヒト(ベルギー)とラシン・パリ(フランス)の合計4チームによる大会だった。
 アンデルレヒトとの試合は2−1で勝利。エウゼビオは1ゴールを決めた。彼はその次の試合で、偉大なペレと対戦し、パリ市民の大歓声を聞いた。欧州チャンピオンとなったベンフィカは、エウゼビオをベンチに残して、サントスとの試合に臨んだ。チャンピオンズカップでの疲れが残っていて、ベンフィカの動きは冴えず、立て続けにゴールを奪われ、0−5となったところで、エウゼビオが送り込まれた。このスコアをひっくり返すのは奇跡だ――と思うと気が楽になり、エウゼビオの2ゴールを含めて3−5まで追い上げた。結局は3−6で敗れたが、翌日のパリの新聞はベンフィカの新しいストライカーへの賛辞を掲げた。

 同じ年の9月に、彼は南米で苦い経験をする。ウルグアイのペンやロールとのクラブ世界一決定戦、いわゆるインターコンチネンタルカップ(のちのトヨタカップ)。欧州のナンバーワンと、南米(コパ・リベルタドーレス)優勝チームの対戦だった。
 リスボンでの試合(9月4日)はベンフィカが1−0で勝ったが、モンテビデオでの第2戦(9月17日)はなんと0−5で敗れた。この2試合には、若いエウゼビオやシモンエスは加わっていなかったが、1勝1敗の後の9月19日のプレーオフ(当時は得失点計算でなくプレーオフだった)のために、モンテビデオへ飛んだ。
 第3戦はペニャロールが5分に先制した。FKからだった。前半の終りに近づいたころ、エウゼビオがドリブルで持って出て、エリア外からのシュートをゴール左上へ決めた。
 欧州と南米のナンバーワンクラブの戦いは激しさを増し、互角のまま後半も続いたが、PKでペニャロールが2−1で勝った。エウゼビオには、不満の残る判定だったが…。
 それでもエウゼビオは60−61シーズンの終わりにデビューし、ビッグな相手との試合でゴールを重ねてチーム内で確固たる地位を築いた。ベンフィカに若返りの時がきていた。


(週刊サッカーマガジン 2008年3月25日号)

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