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速攻は相手DFの裏を狙う

 イタリアW杯予選は、スペイン、ハンガリー、北アイルランド、マルタ、アイルランドの欧州第6組で、ビッグネームはなかったが、北アイルランドに1勝1分け、マルタに2勝、ハンガリーに1勝1分け、スペインには1勝1敗。スペインに次いで2位となってイタリアへ乗り込んだ。
 本大会1次リーグは、イングランド、オランダ、エジプトともに“島流しグループ”に入り、サルジニア島のカリアリ、シシリー島のパレルモを会場に戦った。その試合ぶりはまことにシンプルながら、暑熱のなかで動きやむことなく、サッカーの持つチーム格闘技の要素が際立っただけでなく、最後まで勝利への意欲があふれて、まことに好感を持てた。

 私がナマで観たパレルモでの対オランダ戦は、オランダのフリットも次第に調子が上がってきていて、彼らしいストライドを生かした突破もあり、アイルランドにとっては苦しい試合だった。
 前半、フリットのゴールでリードされるが、後半のピンチも切り抜け、一瞬のスキを突いて同点ゴール。DFラインの背後へ落したロブがオランダのDFファンアーレの足に当たり、GKファンブロイケンがファンブル、そこへタイミングよく切り込んだクインが決めた。

 コンチネンタル(欧州大陸)のDFは技術も高く、体格もいい。しかし、DFというものは、自分のラインの背後に来るボールは難しいものだ――というチャールトンの持論が見事に生きたゴールだった。この奇跡的な同点ゴールで、アイルランドは決勝ラウンドへ進み、東欧のラテンといわれる技術の高いルーマニアと対戦。その攻撃を延長も含めてゼロに封じて、PK戦で勝ってベスト8入りしたのだった。
 PK戦では、GKのパット・ボナーが、始め2人に対しては動きが早すぎたが、シュート方向に身体がついていった。そして、5人目のティモフティのシュートを(GK側から見て)右手へ飛んで防いだ。アイルランドの5人目はアーセナルにいるオレアリーだったが、右足でゴール右上に決めた。

 ローマ・オリンピック・スタジアムの7万3,000人の観衆の前での準々決勝は、イタリアがドナドーニのシュートのリバウンドをスキラッチが決めたゴールが決勝点となったが、後半、アイルランドのロビング攻撃に備えて、深いDFラインを敷いたイタリアDFに対して、それを承知の上で、空中戦を挑むアイルランドの意欲はまことに迫力があった。
 一見、効果の少ないように見える攻めを繰り返すうちに、リバウンドをシュートする機会が生まれ、スタンドからは悲鳴が上がるほどだった。


(サッカーダイジェスト 1991年3月号「蹴球その国・人・歩」)

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