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サッカー 故里の旅 第22回 強い!! イングランド、見事なチームワークでオランダに大勝


向いていないベルカンプ

 前半のシュートはオランダ10、イングランド5、CKは8と2、ボールポゼッション、つまりボールの支配率は54と46――回ってきたデータを見ながら、サッカーは数字だけではわからないものだと、改めて思う。
 96年6月18日のウエンブリー・スタジアム、グループリーグA組第3戦のオランダ対イングランドは、45分を過ぎてハーフタイムに入っていた。
 特別席は一般席とは完全に仕切られた大きなルームになっているため、1−0のリードに気をよくしているであろうイングランド・サポーターの歌声が聞こえないのが残念だが、イスはゆったりと、テーブルも広いのはありがたい。広げたノートへの書き込みも多くなる。

「オランダはセードルフが攻撃の要――ただし、彼のパスもシュートも相手を崩してはいない」
「イングランドはマクマナマンの飛び出しが脅威。ガスコインのゆっくりしたペースが1対1にも全体のテンポになり、ボランチのインスはガッザなど攻めへの支援もいい。どのプレーヤーも自分の役柄をイキイキとこなしている」

 イキイキとポジションプレーをこなすというのは、自分の一番得意なプレー(キックの型を含めて)を出すことになるから、相手にとっては脅威になる。それに対してオランダはどの選手も上手だが威圧感がない。クライファートがいないのは、単に長身のCFがいないということだけでなく、ベルカンプがそのポジションに入ることで彼の特長を半減している。
 94年W杯の準々決勝、対ブラジル戦で0−2からオランダが2−2までいったん追いついたのは、メンバーを変えて、それまでトップにいた彼を第2列に置いたからだと、私はいまでも思っている。
 第2列からの突進といえば78年W杯の得点王ケンペスも2次リーグに入ってからポジションがかわり、その爆発的なドリブルとシュートでアルゼンチン優勝に貢献した。
 などと思っていると、ハーフタイムが過ぎ、選手が入ってくる。テレビカメラマンの思いも同じとみえて、特別席のテレビにベンチにいるクライファートの姿が2度も写っていた。


2点目は得意のヘディング

 2点目を取るのはどちらか――という後半開始の時の興味はイングランド、しかも6分という早い時間だった。左CKからのシェリンガムのヘディングが決まったのだが、CKに到るカウンター攻撃がまことに見事だった。
 セードルフのベルカンプへのパスをアダムスが止め、ボールが高く上がると、ハーフウェー・ラインのシアラーが後退してこれをヘディングで左サイドのアンダートンへ。アンダートンは2人に囲まれながら中央へドリブルして右寄りのシェリンガムへ、そこから右オープンのアンダートンへパスが出て、彼は右の好位置からDFとGKの間を通した。
 左外へ走っていたアンダートンへは通らなかったが、きわどいパスは左CKのチャンスを生む。長身DFアダムスがエリア内に入り、ニアポスト。中央はシアラーとシェリンガム、右のファーポストにはマクマナマンという配置で、ガッザのキックはゴールエリア1m外、ファーポストへ落下するハイボールだったが、このとき、シェリンガムがまずニアへの動きを見せて、止まり、ついで後方のシアラーが大きくニアへ走ってDFを牽制、シェリンガムが反転してビンターの後方へ回りジャンプヘッドを決めた。彼らの細かい動作はあとでテレビのリピートを見て知ったのだが、こうしたハイボールに対する駆け引きと、ボールを叩く強さは、やはりイングランドの空中戦の伝統を思わせる。

 豪快でビューティフルなヘディングでの得点――得意技でのゴールはイングランドの士気を高め、サポーターは沸き立つ。
 その2点目から6分後に3点目、今度はガスコインのドリブルからだった。


  ガッザのドリブルの柔らかさ

 オランダのGKファンデルサールから右DFのレイジハーがボールを受けてドリブルで進み、中央へパス。センターサークル近くでR・デブールがこのボールを止めそこなった。すかさずアダムスが奪ってガスコインへ、キープした彼は左のアンダートンへ。アンダートンも少しキープして、また後ろのガスコインに返す。ガッザは短いパスをマクマナマンに送って、リターンをもらい、エリアに侵入して一人をかわし、ブリントを前に置いて右アウトでやや後方のシェリンガムに渡す。シュートレンジのシェリンガムは、相手ボハルデと向かう形でフェイントを入れておいてダイレクトで右のシアラーへ。ノーマークシュートをリーグの2年連続得点王が外すわけがない。
 こうなれば、なにやってもうまくゆくイングランド。ベルカンプのシュートが外れた後、DFからのロングボールをシェリンガムが前方へ、バウンドしたボールをシアラーが競り合って取り、左から中へ走り込んできたアンダートンにパス。ドリブルした彼はエリア5メートル前からシュート。GKファンデルサールはセーブしたが、ころがったところへシェリンガムが突進し、右足シュートを決めた。
 まさかの4−0、オランダは73分にクライファートが入り、5分後にベルカンプからのパスを受けてようやく1ゴールを返した。

 A組のもう一つの試合はスコットランドがスイスを破ったが1−0だったから、大敗にもかかわらずオランダはクライファートのゴールでA組2位、ベスト8に残った。


(サッカーマガジン掲載)

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