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サッカー 故里の旅 第23回 ドイツを圧倒しながら1点を奪えずイタリアは1次で敗退

Brave Italy go out with all guns blazing.
「すばらしきイタリアが去る。すべての砲を撃ち尽くして」

 タイムズのスポーツページはイタリアへの“鎮魂”の見出しをつけていた。
 そして、アリーゴ・サッキ監督や、ゾラ、カシラギたちのイタリア勢が19日のオールド・トラフォード(マンチェスター)でサッカーのすべての点で圧倒しながら、ドイツと0−0で引き分け、同時に隣のアンフィールドで行われたチェコ(3−3)ロシア戦の結果、この組の3位となって準々決勝に進めなくなったことを伝えていた。“ブレイブ・イタリアか、確かに昨日のイタリアは意欲満々で、すごい試合をした”と改めて振り返る。

 6月20日、わたしはロンドンのオックスフォード・ストリートW1Hにあるセルフリッジ・ホテルの513号室で、新聞を広げメモと照合し、紅茶を飲みながら前日の試合を振り返っていた。
 このホテルはオックスフォード・ストリートという賑やかな通りにあるセルフリッジ百貨店のすぐ隣で、ウエンブリーへゆく地下鉄のボンド・ストリートにも近い。ありがたいのは、すぐ近くに有名な食料品スーパーがあって、脂っ気の多いレストランの食事を避けて、自分の好みの野菜や果実を摂ることができることだ。


背水のイタリア気迫のタックル

 前夜19:30キックオフのイタリアードイツは、旅程の都合でテレビ観戦したが、イタリアの気迫が小さな画面からも痛いほど伝わった。
 メモ帳のはじめには両軍のラインナップとそのすぐ横の書き込みに(試合前セレモニーで)ドイツ選手は歌い、コール首相もスタンドで歌う――イタリア国家はサポーターの歌声が響いていたのに、選手の口元はほとんど動いていない――とある。
 すでに2勝を挙げ、引き分ければベスト8進出の可能なドイツと、1勝1敗で、勝たなければいけないイタリア、そのアズーリの背水の陣ともいう気持ちは、ザマーに対するアルベルティーニのファウル・タックルに始まる3つの連続反則にもあらわれた。3つ目はメラーのキープに対するカシラギのタックルが足に入ったもので、黄色が出された。メラーのゆっくりキープからバックパスという動作への反則だったが、少しでも早くボールを取りたい――というカシラギの意欲が見えていた。
 この反則のFKから、ドイツが後方でボールを回すのに再びカシラギが奪いにゆき、ザマーのキックを体に当てて、一気にゴールへ――。
 追走するザマーを背にエリアに入り、飛び出してきたGKケプケをかわしたとき、ケプケの足がカシラギを倒した。ゲタルス主審(ベルギー)はためらうことなくPKを示した。
 ただし、カードはイエローもレッドも出なかった。単にはずみで足が引っ掛かったものと見たのかどうか(テレビのリプレ―ではケプケはスライディングして左足を上げ、それが引っ掛かったのだから、レッドが出されても不思議はなかった)。

 いずれにしてもイタリアにはキックオフ後8分で訪れたチャンス。シューターはゾラだから、誰もが先制ゴールを予感したのに、ゾラのゴール右下を狙った右足インサイドキックは弱く、コースを読んだケプケがセービングで、このグラウンダーをしっかり捕らえた。
 好機を逃しはしたが、勢いからみてイタリアには、まだまだ得点機は生まれるだろうと予想できた。

 この日のイタリアのラインナップは、4人DF、中央にマルディーニとコスタクルタ、右がムッシ、左がカルボーニ、MFは右からフゼール、アルベルティーニ、ディマッテオ、左がドナドーニ、FWがゾラとカシラギ。人の意表をつくゾラと、シュートもポストプレーも突進もよいカシラギの二人は開始早々から、何かを起こしそうな気配だった。

 ドイツはザマーをリベロに、ヘルマーとフロイントがDFの中央部、後者がゾラに、ヘルマーがカシラギをマークし、右のDFはシュトルンツ、左はツィーゲ、MFはアイルツがボランチ役、ヘスラーが右、メラーが左。2トップは、ボビッチとクリンスマン。名前から見ても東欧系と知れるボビッチはスロベニア生まれ、しっかりした体つきでポストプレーが確実。


17番のサイド攻撃は

 この大会での、私の収穫の一つはイングランドのマクマナマン、ドイツのツィーゲ、イタリアのフゼールといずれも17番をつけたサイド攻撃(DFであれMFであれ)を担当する若い逸材を見たこと。この日の試合で、ツィーゲとフゼールが対決した。
 ツィーゲは前半にいいクロスを一本送り、また、カウンター・アタックでよく走って、クリンスマンからの斜めのクロスをゴール前まで詰めた(トラップミス)のがあったが、これまでほどには攻めに出られなかった。フゼールは、前半に2本シュートをした。1本は相手DFのクリア・ヘディングをボレーで蹴ったもの。ライナーで飛んで、ワンバウンドでゴール左下隅に向かったが、ケプケがフィスティングで防いだ。このフゼールと、DFムッシによる右サイドの攻め上がりは効果があり、特に相手のパスを奪ってのカウンター攻撃は、イタリア伝統の早さと技巧を見る気がした。
 フゼールの反対側、左DFのカルボーニのカウンターの時の“飛び出し”が早く、MFのドナドーニのキープとともに、ドイツの守りを脅かした。左右のサイド攻撃の力が強ければ、チャンスの数も増す。

「両チームの勢いの違いを見ていると、82年W杯決勝を思い出す」
 イタリアと西ドイツが決勝を争い、3−1でイタリアが勝ったが、守備重視の当時のイタリア代表ながら、カウンター・アタックに出た後の、第2波、第3波の攻撃がすばらしかったこと。そしてまた、W杯の得点王に輝いたパオロ・ロッシがいたことを思い出す。
 そして14年前の対決でもイタリアは前半に訪れたPKのチャンスを失敗したが、それがかえってイレブンの気持ちを高めて勝ったのだった。
 ドイツはルムメニゲ主将をはじめ故障者が多く、技術的にも見劣りした。「こんどのチームは、82年にくらべると、体格が大きく空中戦に強い。それが時間の経過とともに、試合の流れに影響するかもしれない」
 45分を終わったハーフタイムに、私はこんなメモを書き込んでいた(この試合は次号に続きます)。


(サッカーマガジン掲載)

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