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サッカー 故里の旅 第24回 ドイツが10人で守りきり、イタリアは30年前の悪夢さながらイングランドを去る


日韓シンポジウム

「決勝は日本、名称はKOREA-JAPAN」。2002年W杯の骨組みについての、チューリヒからのニュースが日本を駆け巡った翌日、11月8日に大阪で「2002年ワールドカップ、日韓共催を成功させよう」というシンポジウムが行なわれた。韓国、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)系の市民18万人が住む大阪らしく、日韓親善協会や経済界の推進で生まれた催しで、実行委員長は“ドケチ商法”で有名な吉本晴彦・大阪丸ビル社長。日本側パネリストに、同氏ご歴史学者で大阪女子大学の上田正昭学長、ジャーナリストの私、韓国側は政治家で元大韓協会会長のキム・ユンハ氏、元駐日大使のオー・ジェヒし、政治学者のシン・ヒソク氏、コーディネーターに大阪大学の津守滋教授という顔ぶれで、W杯をチャンスに新しい日韓関係のあり方やその方策を話し合った。

 内容については、別の機会に譲るとして「聴衆が熱心なのに感心した。聞かせてもらってとてもよかった。有意義な会だった」(森健一・大阪協会会長)の感想を紹介するに止めておくが、こうした市民サイドの相互理解のための動きは今後も多くなるだろう。ただし、サッカー人たる私は、韓国側はパネリストも聴衆もサッカーに詳しいのに、日本側ではセレッソへ高正云が加わったことも知らない人が多かったことから、共同開催だ、親善だとは言っても、サッカーそのものが共通の話題にならなければ――と考えるのだった。
 そして、改めて5ヶ月前のヨーロッパ選手権は、まさに全ヨーロッパの共通の楽しみであったことを思った。
 その“EURO96の旅”は前号に続いて、1次リーグC組のイタリア対ドイツ、いよいよスリル満点の後半に入っていく。


耳はアンフィールドに

 前半を終わって、0−0、オールドトラフォード(マンチェスター)のイタリアサポーターは苛立っていた。64キロ離れたアンフィールド(リバプール)でのC組のもう一つの試合で、チェコがロシアを2−0とリードしていたからだ。
 後半開始してすぐ、サポーター期待の一撃――ドイツのDFシュトルンツの長いパスを奪ったイタリアがパスをつなぎ、フィニッシュは右サイドのフゼールの強シュートだった。しかしGKケプケは手に当てて、はじき返した。
 シュトルンツはつぎにまた、ボールを奪われて危機を招く。奪ったゾラはドリブルでエリアへ。右をカシラギが走った。ザマーのゾラへの接近は、そのカシラギへのパスコースも計算に入っていたのだろうか、ゾラはパスを出さずに、切り返しでザマーを小さく外したが、追走してきたシュトルンツがボールを突き出し、ザマーがスライディング・キックで外へ逃れた。

 60分にイタリア側はゲタルス主審のイエローカードに喜ぶ。シュトルンツが2枚目で退場となった。
 彼の1枚目もオヤッという感じ、2枚目も“?”だったが、ドナドーニの足へ入ったタックルの勢いが強かったのかもしれない。
 いずれにしてもドイツはここから10人。スタンドのイタリアサポーターは、アンフィールドで49分と54分にロシアが2ゴールを決めて、2−2の同点にしたことを(ラジオなどで)知っていたから、1点を取りさえすれば――と願ったに違いない。


堅いドイツの専守防衛

 ドイツがこの不利な態勢をどうするかみていると、2分ばかりたってからFWのボビッチがシュトルンツのポジション、右のDFに入って守りの形が整い、FWはクリンスマンのワントップとなる。
 ボビッチは、相手を背にしてポストプレーのできるFW、つまり接触プレーに強く、体格も大きくがっしりしていて、ディフェンスの要領もよい。加えてチームは10人となったため、専守防衛という目的がはっきりして、守りはむしろ堅くなる。

 ボールを動かして、1人多い有利さを生かせるはずのイタリアだが、余裕があればボールを止めたくなるもの。疲れも加わって、ミスパスも増える。サッキ監督はFWのキエーザを送り、ディマッテオに代える(66分)。後方にポジションを移したゾラがカシラギとキエーザにパスを送って崩しにかかる。だがドイツの守りに隙はない。遠くからのシュートはDFが体に当て、ゴール前のクロスはヘディングで返した。

 80分にドイツ側がヒヤリ。ザマーの上をこえたボールの落下点へカシラギが走り込み、追走したザマーともつれて倒れた。しかし反則の笛はなく、飛び出したGKケプケがボールをとった。
 ちょうどその直後、スタンドがざわめく。アンフィールドでロシアが3−2でリードしたというのだ。チェコが敗れれば、イタリアは引き分けでもベスト8に残れる。しかし、もしチェコが引分ければ、イタリアは引分けても次へは進めない。そのためには、やはりゴールがほしい。
 その願いを込めてのイタリアのCKが3回繰り返されているとき、アンフィールドは3−3の同点になっていた。
 タイムアップの笛が鳴ると、テレビはアリーゴ・サッキがフィールドを去ってゆく後姿を映していた。
 試合のあとで、BBC放送の解説で元オランダ代表のフリットはこう言った。

 「ドイツのプレーヤーはリアル・プロフェッショナルだ。あれだけ押しこまれていても、FKやCKの時に、すぐそれぞれのポジションの配置につく冷静さは立派なものだ」  ドイツはポジショニングで切り抜け、イタリアは60年W杯に続いて、96年のイングランドも不運だった。


(サッカーマガジン掲載)

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