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EURO92観戦記(1)オランダの連覇を予感。しかし現実は…


 1次リーグが終わったところで、オランダの連続優勝を予想するのは当然――といった空気だった。それが準決勝で、デンマークによって食い止められたのだから、サッカーは何が起こるか分からない。そして、オランダの誇る世界のストライカー、マルコ・ファンバステンは4試合で無得点。PK戦ではデンマークのGKシュマイケルに止められて、チーム敗退の原因となった。
 スコットランドを1−0、CIS(旧ソ連)と0−0の引き分け、ライバルのドイツに3−1。2勝1分け、得点4、失点1の成績と一つひとつの試合ぶりは、今回のオランダは1988年のあの“勢い”はともかく、円熟したビッグ・チームという風格さえあった。
 フリットが右サイドに立ち、左にロイを置いて攻撃の幅を広げ、中央部に広いスペースを作っておいて、ファンバステンが自由に動く。彼の動きで(マークの相手も付いてくるから)生まれる空白地域にベルカンプ、ライカールト、ビチュヘらが入ってくる――。ミランのトリオ(ファンバステン、フリット、ライカールト)が、所属チームと同じ手法でやっているから、いかにも手慣れた感じ。もう一人の大スター、クーマンはもちろん、どの選手も「これほど上手だったか」と再認識するほど、しっかりした技術を持っていて、“再びオランダ時代”と思いたくもなる。


ノーゴールの主砲

 主砲のファンバステンは、1次リーグの3試合でノーゴールだったが、CIS戦で見事なダイビングヘッドでネットをゆさぶり(オフサイド)、対ドイツ戦では左足ボレーのすごいシュートをバーに当てたりした。ダイビングヘッドは、テレビ画面で見るとパスが相手DFの裏へ蹴られた瞬間、ファンバステンはオフサイドではなかった――というのがテレビ雀たちの声。
 彼のゆったりした構えから、一転しての早い動き、大きなターンも、小さな反転もやってのけ、右でも、左でもシュートする才能の高さは、この大会でも見ていて飽きることはない。
 周囲の状況を読んで的確なパスを出し、また、自分の動きで、相手DFを誘い出すといった戦術眼は、若いころからあったようだが、それもますます磨きがかかってきた。特に今回は第2のファンバステンともいえるベルカンプのシュートチャンスが、彼の動きで生まれていたのが目についた。


仲間を働かせるうまさ

 対スコットランド戦のゴールは、フリットが右サイドからふわりと上げたのを、彼がバックワードヘッドで、ゴール正面左よりのライカールトにつなぎ、ライカールトがヘッドでこれを右前に落として、そこへベルカンプが走り込んでシュートを決めた。
 対ドイツ戦の3点目は、右サイドを突破したボスからの低いボールをベルカンプがヘッドしたが、パスが出てくる直前にファンバステンが右前に動いていたために、相手DFも一緒に動いて、ゴール前、ベルカンプの前に空白が生まれていた。
 彼のうまさは、対デンマーク戦の同点ゴール(2−2)とした、後半の右のCKでも表れ、ビチュヘへのキック(ライナー)をフリットが頭で後ろへ、その落下点へ走ったファンバステンが、デンマークの二人と競りながらヒールで後方へ残し、それがライカールトに渡って、ライカールトのシュートが決まったもの。


ぜいたくなファンから見れば…

 こうしたファンバステンのプレーは、クライフの指導を受け、クライフを尊敬する彼らしいものだが、私のような“ぜいたくな”ファンバステンのファンには、ヒザを叩く思いのする巧みさだけでなく、彼自身が、自分の得点に執着してもいいのではないか――と思ったりする。
 ゴールゲッターとして、ストライカーとして、もうすこしギラギラしたところがあってもいいのではないか――彼は若いころからクールな感じで、日本の「カマモト」やドイツのゲルト・ミュラーのように、自分が点を取るのだ――という、強い意志が現れない選手だが。
 準決勝のデンマークのように、闘志満々で突っかけてくる相手に対しても、チームの核であるファンバステンが、どこかで、もう少し無理をしていれば、もっと早くチームが立ち直ったのではないか、とも思う。(2−2だったから、負けてはいないが)オランダのトップスターの年齢が高くなっていることも、そうした意欲に響いていたのかもしれない。いずれにしても、ドイツ相手には闘志を燃やすオランダとファンバステンを、もう一度見たい願いは消えた。


(別冊サッカーマガジン・サッカーEURO'92)

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