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EURO92観戦記(3)楽しみにしていた若手の登場。その一番手はベルカンプ!

 大スターたちの不満はあっても、円熟味のあるプレーとともに、ベルカンプ(オランダ)ブロリン(スウェーデン)リードレ(ドイツ)ヘスラー(ドイツ)ポウルセン(デンマーク)H.ラルセン(デンマーク)B.ラウドルップ(デンマーク)ら若手のゴール、あるいは得点に絡む動きやプレーは、大会を活気づけた。
 オランダのベルカンプは、4試合で3ゴールをあげたが、23歳の彼は、若い時にクライフに認められたというだけあって、確かにドリブルも速く、シュートもいい。
 第1戦の対スコットランド戦では、ミランの3人によるパスの構成で、ライカールトが頭で落としたボールを走り込んで右足で決めた。この得点の前に、ゴール正面の25メートルあたりで、右から左へ斜めに走って、相手DFを背にエリアにかかるあたりで、左足でシュートをしている。左足でのミドルシュートの強さもなかなかで、右利きだが、右でも左でもシュートし、パスも出す。
 対ドイツ戦ではチームの3点目、2−0を2−1と追い上げられたとき、右のビンターからの低いクロスをヘディングで決めたが、腰を低くし、しっかりボールを見て、頭で叩いたところは、ストライカーとしての、点を取る姿勢が備わっているという感じがした。
 彼の大会3点目となった準決勝、対デンマーク戦のゴールは、ライカールトのヘディングが落ちて転がってくるのを、ダイレクトシュートしたが、ゆっくり転がり、小さくバウンドしたボールに合わせて、シュートの構えもゆっくりと入っていたところ。シュートそのものは強くなかったが、左下スミへ入った。
 たとえ、一瞬ノーマークであっても、相手ゴール前の重要なところで、ボールに気持ちを集中できるところが、彼のストライカーの素質だろう。
 ファンバステン(188cm)よりやや背は低く184cm。師匠(クライフ)兄貴分(ファンバステン)のデビューのころから見ると、スマートさとかキレ味という点は別にして、もう少し野暮ったいが、力があるように見える。1980年の欧州選手権で、ドイツにシュスターという大物を見たが、ベルカンプの今後を想像するのは楽しい。辛口の批評で知られるイギリスのブライアン・グランビル記者も「ベルカンプはファンバステンのクラス」と言い切った。


地元を沸かせたブロリンの緩急

 スウェーデンの活躍は大会を盛り上げたが、その人気の中心は童顔のブロリン。大男の多いスウェーデンの中で、177cmは小さく見えるが、俊敏さでは、1、2だろう。彼と競り合う相手は、並ぶ間もなく体を入れられ、防ぐには引っ張る(ホールディング)か、足をひっかける(トリッピング)かの反則しかなくなる。
 4試合で3ゴールを決めたが、ドイツ戦はPK。対デンマーク戦、対イングランド戦のゴールは、いずれも振りの小さく、速い右足のスイングから生まれている。
 前者は、右へ出たダーリンの低いクロスをシュバルツがタッチしてゴール正面へ流れたのを、速いスピードで相手と競り合いながら走りあがってきたブロリンが右足に当て、ゴール左下へ決めた。短いダッシュの鋭さと、ダイレクトのボールに合わせる足の振りの小さいのが印象的だった。
 イングランドを大会から去らせる、スウェーデンの2点目となったブロリンのシュートは、自分の持ち上がりがスタートだった。ドリブルでハーフラインを越えて、インゲソンに渡し、彼からもう一度もらってドリブル。相手のデス・ウォーカーを前に、ダーリンを壁にし、そのリターンに鋭いダッシュで合わせ、ダイレクトシュートをした。ダーリンとの壁パスの直前に一度、スピードを緩めて自然の緩をつくり、次に一気にダッシュして、デス・ウォーカーより早く前に出たところは、22歳7ヶ月の若い速さが売りであっても、その“急”を生かす“緩”を心得た欧州のエリートの一端を見た。


ゲルマン魂を受け継ぐヘスラー、リードレ

 165cmの小さな体で、フィールドいっぱいに動くトーマス・ヘスラーのパスや長いクロスのうまさには目を見張るが、彼のFK2本は、準決勝までの大会のハイライトのひとつだ。
 ドイツが第1戦でCISにPKで先行され、90分近くまで0−1だった時に、ゴールの右上スミに入ったヘスラーのFKはまさに起死回生。ヨーロッパ中が、テレビでのリピートを何度も見たに違いない。
7人並んだCISの壁の右端(キッカーから向かって)に立った仲間のクリンスマンが、身をかがめた上を通ってポストぎりぎりにゴールへ入ったのだから、テクニックの確かさとともに、土壇場で狙った通りにする気性の強さに感銘を受けた。

 準決勝の対スウェーデン戦は、このよく知られた右足で右ポストを狙ったFKでなく、右足で左ポストへのカーブを蹴ったのだから、その技の多彩さと自信には感銘のほかはない。
 前の時と同じような位置で、同じような配置だったから、相手GKは当然、テレビで見た場面が頭に残っている。クリンスマンも前回と同じ位置にいたが、ヘスラーのキックは、相手DFや観衆の読みとは全く別のポストへ飛んでいた。
 ヘスラーはセットプレーでの2ゴールだが、同じドイツのリードレは、ドリブルとパスを組み合わせた攻撃のフィニッシュを成功する5試合3得点。
 対スコットランド戦では、29分の1点目だったが、エリア内でクリンスマンが相手を背にしてキープしているボールを、左斜め後方からかっさらうようにしてこのボールを取り、右足でシュートした。クリンスマンと相手DFのためにブラインドになっていたGKには全く不意打ちだったろう。
 リードレは179cmで、小さくもないが高い方ではない。
 しかしヘディングは強く、イタリアでの所属クラブのラツィオでも、頭でのゴールが多いというが、この大会はグラウンダーのパスを受けての得点。この1点目は多数防御を破るひとつの手法だが、クリンスマンが相手を背にしたカゲに現われてのシュートは、まことに守りの意表をつき、その弱点をあばいたものだ。

 対スウェーデン戦の、チーム2点目と3点目が、彼の大会の2、3点目となったが、左からザマーが持ち込んでの、ゴールラインと並行の早いクロスに走り込んで右足で角度を変えて、右下へ決めたのがひとつ。もうひとつは、25mまで持ち上がったヘルマーが、右タッチ際から中央やや右寄りまで、相手のタックルをかわして変形円を描き、右前のノーマーク地域へパスを出したのを、内側から飛び出したリードレが、右足でシュートし、左下へ決めたもの。
 ミドル・シュートは、力んで失敗していたが、短いシュートをきちんと決めていた。ショートレンジのシュートがうまかったのは、ゲルト・ミュラー。有名なボンバーに次いで、エリア内で強い選手が現れたように見えた。クリンスマン、フェラーに、違うタイプの彼が加わることは、チームの攻めを多様化することになる。


デンマークの新しい2つの星

 デンマークの決勝進出は驚きだったが、全員の勝負への意欲と、ラッキーボーイともいえる、ヘンリク・ラルセンの3ゴールが輝く。1次リーグ第1、2戦に得点のなかったデンマークがフランス戦の8分に大会の初ゴールを決めたが、これは、左よりのFKから右に振って、ポウルセンがヘディングで折り返しラルセンが左足のボレーで叩き込んだものだった。
 デンマークリーグのチャンピオン、リンビーBKのDFで26歳。大会ではMFで右サイドを受け持つ。
 その彼が、オランダのDFから2ゴールを奪う。前半5分、ラウドルップの右でのドリブルと、カーブのかかったファーポストへの見事なハイクロスは、そこに待ち構えたラルセンのノーマークでのヘッドとなった。上背もあるラルセンは、この日、相手DFからのロングパスをヘディングで防いでいたが、そのヘディングのうまさが先制点となった。
 2点目は同点に追いつかれてから、7分後。今後はポウルセンの左からのクロスがビルフォルトが右から頭で折り返し、ラウドルップがこれをヘッドで中へ、相手のクーマンがヘッドでクリアすると、これがゴール正面、エリアの外へ――そこにラルセンがいて、右足シュートを左下へ決めた。
 このチームの攻撃の主力、ブライアン・ラウドルップ(バイエルン・ミュンヘン)は、バルセロナの兄のミカエルと似たドリブラー。大会ではゴールはないが、ポウルセン(ドルトムント)とともに、ラッキーボーイを引き出し、大会に新風を吹き込んだ功労者といえる。
 彼らだけでなく、日本にはなじみの薄い選手たちの働きに、やはり欧州のレベルは高いと思う。


(別冊サッカーマガジン・サッカーEURO'92)

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