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ロマーリオ(4)強豪オランダ相手にシュート力と決定力でフルに活躍

 1994年7月9日、午後3時から始まったダラス・コットンボウルでの94年米国ワールドカップの準々決勝。オランダ対ブラジルは、大会で最もスペクタクルな試合の一つだった。
 ブラジルは例によって、しっかり守り、攻撃はロマーリオ、ベベットのペアに任せるという格好だった。
 前の試合で退場処分を受けたレオナルドに代わってベテランのブランコが左サイドバックに入っていた。オランダの右サイドMFマルク・オフェルマルスのスピードをブランコが防げるかが注目の一つだったが、左サイドMFのジーニョが先輩を助け、相手の力を殺した。
 ロマーリオのシュートがわずかに外れたのと、オランダがFKからデニス・ベルカンプがヘディングをして、クロスバーを越えたのが、前半のめぼしいチャンスだった。オランダのチャンスは、ビム・ヨンクのFKにベルカンプの外側にいたフランク・ライカールトが飛び込んだ方が良かったのかもしれない。
 そのライカールトはロマーリオがドリブルで仕掛けるボールを奪い取って、“さすが”と思わせる場面もあったが、後半になると縦の動きが鈍くなる。

 長身のライカールトとは対照的な体つきである、がっしりとしたブラジルのMFマウロ・シウバの中央部での動きが目立った。ドゥンガ主将とともにセンターバックの前で相手の攻めの芽を摘み取る彼の賢明でタフな動きによって、ブラジルの守り全体に余裕が生まれていた。良い姿勢で守ることで、ボールを奪えば前方へのパスも良くなった。

 52分のゴールは、アウダイールがベルカンプからボールを奪った後、左オープンスペースのベベットへ送ったパスから始まった。ベベットは素早く中央へグラウンダーのパスを送る。そこにロマーリオが走り込んで、ダイレクトシュートを決めた。小さくバウンドしたボールを、軽くジャンプして上から押さえるように右足に当てて、GKエド・デフーイを抜いた。1−0。シュート体勢に入る前の彼のダッシュの速さもさることながら、不規則なボールの動きに合わせて強いボールを蹴る能力には脱帽だった。
 2点目もディフェンスラインから前線へ送られたボールからだった。62分にブランコのヘディングからのボールが中央25m付近に行ったとき、明らかにロマーリオはオレンジのDFよりも前にいた。しかし彼は「プレーする意思はない」といった風に、スタスタと歩いて戻った。
“オフサイド”と思って立ち止まったオランダ選手の間を、ベベットが駆け抜けてボールを取った。デフーイが飛び出して防ごうとしたが、ベベットは左に外してシュートを決めた。  FIFAの新しいルール(現行のもの)によればオフサイドとはいえないことになるそうだが、オランダ側は納得のいかない様子だった。

 それにしても、このときのロマーリオの判断と、プレーしない意思表示のジェスチャーは、まことに見事だった。PKを蹴るときにも、ボールへジグザグに、あるいは途中でスピードを変えるなど、相手を“あざむく”行動。彼はこうした“演技”も身に付いているということなのか。

 嫌な点の取られ方をしたオランダだが、ひるむことなく攻撃を仕掛ける。リードしたブラジルがタジタジとなるところが、サッカーの不思議でもある。もちろん、ベルカンプがトップではなく、2列目から前へとポジションを変えたこともあるが、そのベルカンプがスローインから1点を返した。勢いに乗ったオランダは左CKをアーロン・ビンターがヘディングで2点目を決めた。ライナーのCKに小柄なビンターが飛び込んできたこの2点目はスタンドを熱狂させた。

 その5分後、今度はブラジルの3点目。30mのFKをブランコが弾丸のようなシュートで決めた。強いシュートを打てることで知られている彼は、この得点前にも同様の位置から強烈なシュートを打っていたが、そのときはクロスバーを越えていた。今度は低く、押さえが効いた伸びのあるシュートだった。
 面白かったのは、このシュートのときにも、ロマーリオが壁の後方でマークしていた相手とともに動いたこと。後でビデオを見ると、シュートコースを横切っていたから、あるいはGKのコースやタイミングを狂わせるための動きだったのかもしれないが、とにもかくにも、ゴールに絡もうとするロマーリオらしいプレーだったといえるだろう。

 広大な地域で、しかも欧州のテレビ放映時間に合わせた“真の試合”で、レベル低下が語られてきた大会の中で、この試合は私にとっても一つの救いでもあった。
 そして同時に、強敵を相手にしたロマーリオのプレーを堪能できたこと、その質の高さや、噂されていた性格をのぞき見ることができ、嬉しかった。


(週刊サッカーマガジン 2008年6月10日号)

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