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【番外編】U−23日本代表 米国戦の失点から――決定機をつくるドリブル効果


 女子がベスト4に進み(この原稿を書いているとき、3位決定戦の結果はまだ出ていない)銅メダルの望みがあって、北京オリンピックの大会後半になっても、サッカーの話題が残っているのはとても楽しいことだ。
 オリンピックの銅メダルといえば、40年前の1968年メキシコ大会での日本代表(当時は男子だけで、女子はなかった)ということになる。
 私には今も鮮烈な記憶だが、東京オリンピックの4年後で、ようやくサッカーも少しずつ普及が進んでいた頃、マスメディアの理解度は薄く、“銅メダル”の反響もそれほど大きくはなかった。それに比べると、北京の反響は大きい。なでしこジャパンは、すでに女子サッカー興隆のための“歴史”をつくった。さらにもう1試合、自分たちのベストゲームを戦って有終の美を飾って欲しい。

“なでしこ”に比べて、U−23代表の若者たちは3戦全敗――つらいオリンピックだった。
 陸上競技を見ても明らかなように、日本の選手がヨーロッパ、南米、アフリカの選手より上でないことは、何十年も前からの常識――。技術と組織プレーと、それを生かすランプレーによって互角以上に戦おうとしてきた。実際にそういう試合を演じたこともあった。今度はそれだけのチームをつくれなかったということだろう。

 1シーズンを通じてのロングランのリーグではなく、オリンピックのように短期間の6試合でメダル獲得に至る大会では、初戦が大きな影響を及ぼす。その点で、U−23日本代表は第1戦の米国戦を落としたことが、あとあとまで影響したという見方もある。
 この試合のメンバー構成を見てみると、まず守ることが第一という戦略のようで、攻め手はリスタート(停止球=CK、FKなど)とみたのだろう。前半の右ショートコーナーは、まことに見事だった。左足のキックのある本田圭佑は長蹴でなく、すぐ近くの内田篤人に渡し、内田はすぐクロスを入れるのではなく、ペナルティエリア内の香川真司にパス、そのリターンパスを深い位置からダイレクトでゴール前へ送った。ボールは一直線にゴール前を通り、ファーポストへ森重真人が走り込んだ。誰もが「しめた」と思ったはずだが、森重は足に的確に当てられずに先制ゴールを逃した。
 この右CKの場面を見た瞬間に思ったのは、素晴らしいパスワークだが、フィニッシュに走り込んでくるのが、なぜ森本貴幸でなかったのか、だった。
 良いアプローチをつくりながらフィニッシュがうまくいかない――という日本サッカー全体のテーマがここにもあった。

 この試合での失点の場面、相手の右サイドのマーベル・ウインという黒人選手のドリブルからのクロスに、DF水本裕貴が足に当てた小さなクリアを、MFのスチュアート・ホールデンがシュートしたもの。この場面の最終のクロスパスと、シュート、シュートに至る前の中盤でのボールの動かし方が、両チームの特色を表していた。

 47分の米国の攻撃の発端は、ハーフウェーラインから10mばかり米国陣内へ入った右サイドで、後方からのパスを受けた香川真司が右足のアウトサイドでバックパスしたのを、相手に奪われたところから――。
(1)ボールを取った米国側は中央へパスを出し
(2)誰もいないスペース(センターサークル右寄り)でホールデンは長友佑都と間合を保ちつつ、後方からウインが走り上がってくる時間を稼ぎ(日本は本田圭佑もこの局面に加わる)
(3)ウインが自分と同じ高さ(ハーフウェーラインから12m日本側)のサイドへ来たところへパス。ウインは良い形で長友と向き合いスピードを上げてクロスへ持っていったのだった。

 この米国の右サイドからの攻めは、先述のとおり香川のバックパスのミスから(彼にはボールを受けて前を向くスペースがあったが…)だが、そのもう一つ前の局面で日本側が自陣で相手のボールを奪い、梶山陽平がドリブルで左斜めに持ち上がる場面があった。大きなトラッピングで無人のスペースへボールを持ち出した彼を見て、「ドリブルがうまい」と思ったのだが、その後、彼は簡単に左後方の長友にパス(バックパス)を出してしまう。その長友に対して相手の右サイドのMFホールデンが対応して前進を許さなかったため、長友は後方のDFへバックパスし、ここからの攻撃を取り止めにしてしまう。

 日本では、ワンタッチフットボールを口にするコーチが多く、ドリブルの効果を見逃しがちだが、サッカーはパスだけでなくドリブルでのキープも、突破もあることをもう一度考えたくなる、日本戦だった。


(週刊サッカーマガジン 2008年9月9日号)

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