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ユルゲン・クリンスマン(11)欧州5ヶ国、ワンダリングスターがフォクツを助けEURO96の王座に

 ドイツ南西部、シュツットガルトの近郊で生まれ(1964年7月30日)、ドイツ代表のストライカーとして活躍したユルゲン・クリンスマンは、3度目のワールドカップ(90、94、98年=W杯)、3度目のEURO(88、92、96年)に出場して、ドイツ代表が世界と欧州で、それぞれ王座(90年と96年)に就くのに貢献した。

 その非凡なゴールハンターぶりは同世代のロマーリオ(ブラジル、66年生まれ)マルコ・ファンバステン(オランダ、64年生まれ)とともに長く記憶に残る一人なのだが、プレーとともに注目されたのが“放浪ぶり”英語で言えばワンダリングスター(Wondering Star=さまようスター)にあたるのだろうか――。
 シュツットガルト、インテル、そしてモナコ、さらにトットナムと、ドイツ、イタリア、フランス、イングランドとヨーロッパのトップリーグのクラブを渡って、それぞれ、短期間で実績を残してきた。
 94年W杯でベスト4を目前に敗れたあと、イングランドのプレミアシップ、ロンドンの名門トットナムに移って94−95シーズンが終わると、彼は、今度は母国ドイツのビッグクラブ、バイエルン・ミュンヘンに移ってしまう。
 イングランドでは、メディアの評判も良かっただけに、1年での“里帰り”を“裏切り”と怒るメディアもあったが……。

 95年といえば、イングランドのサッカーが89年4月15日の「ヒルズブラ」の悲劇から立ち直って、各クラブのスタジアムの改善に力を入れ、フーリガン対策を練り、生まれ変わったイングランドを全ヨーロッパに見せようと、96年欧州選手権大会への準備が進んでいるときだった。
 そのEURO96の運営リハーサルとしてアンブロカップという名の大会が開催され、各大陸チャンピオンを招き、アジア・チャンピオンとして日本代表も参加した懐かしい思いでもある。

 クリンスマンにとっては、バイエルン・ミュンヘンの好条件とともに、98年W杯を目指すためにも、バイエルンでのプレーが良いと判断したようだ。
 のちに彼が語ったところによると、この“放浪”の間にスペイン・リーグへの話もあったようだが、結局は成立しなかった。
 もともと旅行好きで、違った国や町へ行き、違った人たちと出会うのに興味があったという彼の、この若い選手時代の、それぞれ異なる気質のなかでの生活やプレーを通して得た経験が、のちに監督となったときに役立ったのかもしれない。
「監督」という、遠い話でなくても、彼にはローター・マテウスの後を受けてドイツ代表のキャプテン、若い選手への心配りも必要となる役割が待っていた。

 96年6月8日から30日までイングランドの8都市8会場で開催された96年欧州選手権(EURO96)はサッカーの母国イングランドにとっては、世界にその新しい姿を見せる大切な舞台であったが、ドイツ代表にもここしばらく遠ざかっている欧州の王座を奪還する大きなチャンスでもあった。監督ベルティ・フォクツにとっては、とりわけ重要な大会であった。彼の先代たち、フランツ・ベッケンバウアー、ユップ・デアバル、ヘルムート・シェーン、ゼップ・ヘルベルガーといった大戦後60年間の4人の監督が、W杯、あるいはEUROのいずれかのタイトル、ときにはその両方を手にしているのに比べて、選手として素晴らしい実績を持つフォクツが、まだ、どのタイトルもなかったからでもある。

 94年からの予選第7組でも、スタートは良くなくて、米国W杯で敗れたブルガリアとのアウェーでの負け(2−3)もあり、ホームでのリベンジ(3−1)で1位(2位ブルガリアとともに本大会へ)となったのだった。
 メディアの冷たい目にさらされていたフォクツ監督だが、96年大会は1次リーグでチェコを破り(2−0)ロシアも連破(3−0)し、イタリアと引き分け(1−1)準々決勝でイングランド(1−1)と延長の末、PK戦(6−5)で退け、決勝で再びチェコと顔を合わせて延長、ゴールデンゴールで破って(2−1)優勝を勝ち取った。
 彼が言う「サッカーはチームゲーム」の言葉どおり、チーム一丸となっての「頑張り」の成果だったが、フォクツの厳しさと違ったクリンスマンの明るい人柄も大きなポイントだったという。
 もちろん、ストライカーぶりも発揮された。故障のため、初戦と、対イングランドを欠場したが、対ロシア戦で2ゴール、対クロアチア戦で1ゴールを決め、決勝ではオリバー・ビアホフのゴールデンゴールをアシストする浮き球のパスを送った。


(週刊サッカーマガジン 2008年10月7日号)

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