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釜本邦茂(8)JSLヤンマーを最下位から5位へ、メキシコ・オリンピック予選突破。上昇続く23歳

 今から41年前の1967年、関西のサッカーファンは、一人のプレーヤーによってチームが大変貌し、試合に通う楽しみが倍増するのを実感した。
 64年、東京オリンピックで日本が強豪アルゼンチンを破ったことで日本サッカー界は明るい未来へと踏み出したのだが、その中で関西は地盤沈下していた。65年にスタートした企業8チームのJSL(日本サッカーリーグ)でも唯一の関西チーム・ヤンマーディーゼルの不振にサッカーファンは肩身の狭い思いをしていた。

 そのヤンマーに67年4月から釜本邦茂が加入し、第4戦まで2勝2分け負けなしという成績を残していた。1シーズンに1勝か2勝という、過去2年間の成績から見れば雲泥の差である。さすがに第5戦以降の東洋工業(現・広島)三菱重工(現・浦和)古河電工(現・千葉)の上位陣には及ばず前期の7試合は2勝2分け3敗で終わったが、後期に入ると、チーム力はさらにアップして、東洋工業を破る金星を含む4勝(3敗)を挙げて、この年、14戦6勝2分け6敗(得点28、失点27)で5位となった。
 ヤンマーの成績が上がっただけでなく、それまで、2,000人だったホームの1試合平均観客数は9,000人と4.5倍になった。
 長居では後期の三菱戦に2万人、西京極では前期の東洋工業戦に1万2,000人が集まった。観客の増加はホームだけでなく、アウェーでもヤンマーは観客数増加に貢献した。前年7月に釜本のヤンマー入りが決まったときに「弱いヤンマーを釜本一人で強くできるだろうか」「チームゲームであるサッカーで、彼一人でどこまで全体の力を上げられるのか」といった声もあったが、「釜本を関西に戻す」という狙いは成功した。
 もちろん、彼の入社を決めた後で、さらに9人の新人選手を加えたこと、ブラジルから日系2世のネルソン吉村大志郎を呼び寄せ、後期から出場させたことも効果はあったが、それは全て釜本を生かすため、釜本を軸にするチームづくりのためでもあった。

 JSLで釜本は開幕戦の豊田繊機戦の2得点、第2戦の日立戦の決勝点など、全14試合に出場して14得点4アシストを記録した。惜しくも得点王には1点及ばなかった。
 66年12月のアジア大会で、すでに破壊力を見せながら、まだトラッピングなどに難もあったのだが、ネルソン吉村のプレーに触発されて、ボールタッチも上達していった。
 吉村といえば、ブラジルの名門クラブであるパルメイラスと同じ飛行機で来日したのだった。日本がパルメイラスと3試合対戦(1勝2敗)したとき、第2戦の80分に、釜本は長いパスを追って、相手GKに阻まれながらも、そのボールをモノにして、ゴールエリア左近くから左足シュートを決めている。
 日本代表は、この年の夏は欧州ではなく南米に出向いて、ペルーで2試合、ブラジルで4試合を行ない、南米のプロフェッショナルとの経験を積み、秋にいよいよメキシコ・オリンピックのアジア予選に臨むことになった。

 東京の国立競技場で行なわれた9月27日〜10月10日までの予選は、日本、韓国、南ベトナム、レバノン、台湾、フィリピンの6ヶ国リーグ戦。
 日本はまずフィリピンに15−0で大勝、続く台湾を4−0、レバノンを3−1で破った。10月7日に行なわれた第4戦は、同じく3連勝の韓国。小雨の降る中での対戦は3−3の引き分けに終わった。
 韓国は10月9日の第5戦でフィリピンには勝ったが、得失点差で勝る日本は、10日の最終戦の南ベトナムに勝ちさえすれば良いという状況になった。強いプレッシャーの中での緊迫した試合で、杉山隆一のゴールで勝利を収めて、メキシコ行きを決めた。

 この予選で釜本はフィリピン戦で6得点、台湾戦で3得点、レバノン戦で1得点、韓国戦で1得点を挙げて、合計11得点を記録している。
 東京オリンピックで上昇機運をつかんだ日本サッカーにとって、この予選の勝利は次へのステップのために、とても必要なものだった。東京での開催だけに注目度も高く、NHKで放送された最終戦の視聴率は20%を超えた。
 釜本の破壊力は、この予選でも発揮された。ただし、最終戦では動きが鈍く、十分働けなかったのが私には不満だった。
 それでも、12月にソ連のCSKAモスクワ(中央陸軍クラブ)とチェコのデュクラ・プラハと日本による三国対抗で、欧州の長身DFを相手に彼が見事なジャンプヘッドで勝つのを見ながら、ボールの高さを見切る能力に感服した。
 その三国対抗の最中にJFAは、釜本がドイツへ単身留学することを発表した。


(週刊サッカーマガジン 2008年12月23日号)

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