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デニス・ベルカンプ(4)宿敵ドイツの追撃を断ち、90年の雪辱を果たすビューティフルゴール

 キリンカップの2試合が終わり、日本代表はワールドカップ2010のアジア最終予選6月シリーズを戦うことになった。その初戦の対ウズベキスタンのアウェー戦(6日)で予選突破が決まっても、あるいは決まらなくても、その後の対カタール(横浜)対オーストラリア(アウェー)でも、しっかりプレーをして、自分たちの良さを発揮してくれるのを見たいもの。
 どういう形でゴールを奪うのか、そしてまた、誰がそれに絡み、フィニッシュで働くか――今の日本代表には、そういう楽しみが期待できると思う。


 デニス・ベルカンプの話に戻ると――私が彼を初めて見たEURO92は、今から17年前。日本では、93年のJリーグ開幕を1年後に控えて、各クラブもJFAもJリーグの準備に懸命な時期だった。ヨーロッパ選手権そのものも、80年イタリア大会から続いた8チームによる集結大会(トーナメント)の4回目で、次の96年(イングランド)大会から16チーム参加の規模拡大を控えていた。この大会の開催国スウェーデンのテーマは「スモール・イズ・ビューティフル(小さいことは良いことだ)」といかにもエコの国らしかったが、スモールであっても、レベルは高く、私には、この大会でルート・フリット、マルコ・ファンバステン、フランク・ライカールトのミラン3人衆の揃ったオランダを見ることができたのは、彼らが不調だった90年ワールドカップの不満解消で、まことに有難いことだった。

 その第1戦、対スコットランドで、頑強なスコットランドの守りから1ゴールを奪ったのがファンバステンの後継者と噂に高いベルカンプだったことはすでに述べた。
 オランダは次の対CIS(独立国家共同体)と0−0で引き分け、第3戦の対ドイツは3−1で快勝する。その2試合でもベルカンプは目立つ存在だった。
 この前の年にソビエト社会主義連邦(ソ連)という巨大な連邦国家の形が崩れ、独立国家共同体と名が変わり、略称CISとなっていた。セレモニーでは旧ソ連の国歌でなく、ベートーベンの第九交響曲の合唱の部門を演奏していたのがいささか不思議だった。
 選手はマンチェスター・ユナイテッドのアンドレイ・カンチェルスキスをはじめ実力派がいて、GKディミトリー・ハーリンは自ら「対オランダ戦は自分のキャリアの中でも、最高のプレーの一つ」というほどの働きを見せた。ファンバステンがヤン・ボウタースからのクロスをダイビングヘッドのゴールをオフサイドとした判定が誤りだったとの多くの声(私もそう思った)があったが――ベルカンプはこの試合で突破やシュートをハーリンに防がれたが、次の強敵ドイツとの試合では、オランダの3点目を決めることになる。

 6月19日、イエテボリで行なわれた第2組の第3戦はオランダが前半に2−0とリードした。
 開始後2分のFKをロナルド・クーマンが強蹴でなく、ロブを上げて、これをライカールトがヘディングでたたき込んで先制。14分にもFKを今度はクーマンが短いパスをロブ・ビチュヘに渡し、ビチュヘが左足シュートで壁の間をライナーで抜いて、右ポスト内側へ決めた。ドイツ側にはスコットランドとの試合でギド・ブッフバルトやシュテファン・ロイターといったレギュラーが負傷したこともあり、ベルティ・フォクツ監督の苦心の選手起用もうまくいかなかった。
 後半に入ってドイツはメンバーを代え、動きが良くなってユルゲン・クリンスマンが右CKをヘディングで決めて1−2と追い上げムードに入ったが、リヌス・ミケルス監督はライカールトをDFに下げて守りを安定させ、フランク・デブールに代えて、アロン・ビンターを送り込む。そのビンターの右サイドからのクロスをベルカンプがヘディングで決めて、3−1として試合を決めた。

 この試合のメモにはミケルスの話として、「前半は2つのゴールを早く取って有利になった。後半になるとさすがにドイツは強く同点になりそうになったが、ビューティフルが3点目が生まれて良かった」とある。
 ビンターの巧みなドリブルと、そのクロスのとき、ファンバステンの動きにドイツ側がつられて、ゴール正面が空いて、ベルカンプがノーマークとなり、左下へヘディングしたのだった。

 オランダに敗れて1勝1分け1敗となったドイツだが、そのドイツに困難をもたらせたスコットランド(2敗)が2分けのCISを破ったことで、ドイツがこの組の2位となって準決勝に残り、スウェーデンと対峙する。
 オランダの準決勝の相手は1組2位のデンマーク。誰もがオランダの勝利と読み、決勝でオランダとドイツの再戦を予想したが、オランダはデンマークの勢いに2点を奪われ、GKピーター・シュマイケルの超人的な守りに2点を取っただけ。PK戦で敗れてしまう。ベルカンプは0−1からの同点ゴールを決めて、ゴール前での非凡の強さと巧さを見せたのだが……。


(週刊サッカーマガジン 2009年6月23日号)

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